連載2020.11.11
イームズのプロダクト系デザインは、各アイテムが単品デザインとしてよく知られているが、よく見るとバリエーションが豊富である。それは組み合わせの効率性が伝わるシステムデザインでもある。
イームズとハーマンミラー(以下HM)社の関係にさかのぼってみると、共に元来、家具の量産志向であったようだ。1939年、米ニューヨーク州にクラインハウス音楽堂が建てられ、建築は同僚のエーロ・サーリネンが、家具は主にイームズが担当した。おそらく数十脚の椅子を量産し、その際の加工方法は背と座が一体の2次曲面の成型合板を採用しており「量産とデザイン」志向がすでに芽生えていたと思われる。この頃、本格的に成型合板の量産をスタートしたと推察する。その後、ニューヨーク近代美術館(MoMA)主催のオーガニックデザインコンペで1等を獲得。そして名作DCWへの挑戦が始まり、やがてHM社の製品となっていく。
そして次の発展として、プラスチック製一体型のシェルへとつながり、HM社の理念とイームズ、ジョージ・ネルソンの量産志向が確立し、販売促進としてのカタログもビジュアル化される。
イームズはグラフィックデザインもプロダクトデザイン同様に位置づけており、カタログ制作の企画にも携わったと思われる。
HM社にとって64年は、量産家具メーカーとして3大デザイナー(イームズ、ネルソン、アレキサンダー・ジラード)と共に世界へ向けての大いなるPRをスタートする時期で、その手段として伝説的な「64総合カタログ」が制作され、全世界へ配布された。
64カタログはまさにシステムデザインをビジュアル的に分かりやすく、さらに美しくしたもので、今日でも他に比類なき最高品質のカタログといわれている。それはグリッド状の紙面に黒のシルエット家具だけでバリエーションの内容が明快に理解できる見事な表現であると同時に、各アイテムの写真も一流のカメラマンによる高度な腕と技術力によって、とても美しく仕上がっている。
今回は、一連のイームズ作品を広くPRする上でのカタログについて述べた。そして気付くことは、イームズはいわゆる芸術性の高い一品制作ものには関心が薄く、一般大衆に広く使われ、機能美を有するプロダクトに美意識を持っていたということである。