連載2024.09.14
家具業界では、創業者からの事業承継などが進んでおり、若手社長が次々と誕生している。承継した事業者がよく抱える悩みと対処方法について、オーダースーツ専門店の老舗である銀座英國屋代表取締役社長の小林英毅氏が自らの経験に照らして語る。
「後継者なのに話が通じない‼」
「自分の息子なのに、話が通じない!」
「後継者が自分勝手に変えようとして困る!」
事業承継のサポートをしていると、このようなお悩みを、よく伺います。実は、この問題の根本は「後継者のたった一つの勘違い」であることがほとんどです。
「自分が成果を出してこそ認められる」。この言葉だけを聞くと「どこが勘違い?」と思われるのではないでしょうか? しかし、この「自分が成果を出してこそ認められる」という勘違いが発端となって、親子関係が険悪になったり、ベテラン社員の離職が相次いだり、とても円滑な事業承継とは言えない状況に陥いることがあります。事業承継に成功したとしても、社員や事業内容が入れ替わり、もはや「起業」と表現しても差し支えない状況も散見されます。
あなたは、このような事業承継を望まれますか?
望ましい事業承継とは「育て上げた『自社の価値』を、後継者が承継すること」ではないでしょうか? これを実現するための「12の視点」を、この連載ではお伝えいたします。
「自分が成果を出してこそ認められる」と勘違いした後継者が手を出すこと。「自分が成果を出してこそ認められる」のでなければ、どのような考えが正しいのか?
それにお答えする前に、まず、後継者が勘違いした際に手を出しやすい代表格をお伝えします。
例えば、新しい人事制度、新しいDX(デジタルトランスフォーメーション)手法、新しいサステナビリティー活動…。このような発想が後継者にある場合、かなりの赤信号。社内の混乱を招いてしまいます。それはなぜでしょうか。
後継者がいくら優秀であったとしても、既存の考え方・方法を踏襲する限り、当然ベテランよりも成果を出すのは至難の業です。それは、経験・人間関係が薄いからです。このため「“自分が”成果を出してこそ認められる」と勘違いして「今までと違う考え方・方法」に手を出してしまうのです。
もちろん、会社が成長・発展するためには、今までと違う考え方・方法を取り入れる必要があります。しかし、ほとんどの後継者は、既存の考え方や方法の中身、背景への理解が薄いため「今までとは全く異なる考え方・方法」に手を出しがちなのです。しかし、たとえそれが最先端の考え方・方法だとしても、既存の考え方・方法の中身や、背景への理解が薄い後継者が導入したとき、成果を出せるでしょうか?
基本的に成果は出せません。既存の資産(考え方・方法、社内外の人間関係…)を生かせないためです。もし、単に新しい考え方・方法を導入するだけで、成果が出るならば…もう少し社長業は楽なはず…ですよね。
「自分が成果を出してこそ認められる」の勘違いが巻き起こす社内の混乱。単に成果が出ないだけであれば、さほど問題にはなりません(後継者に対する信頼は得られないのはさておき…)。
問題は、社内で混乱を巻き起こすことです。
社員にとっては、後継者は未来のボス。やはり、気を遣わなければならない相手です。その後継者が、今までコツコツと試行錯誤で積み上げてきたものとは、全く異なる考え方・方法を提示・実行すれば、社内で混乱が巻き起こるのは当然のこと。中には、前例を否定をしてしまう後継者もいます。そうすると、社員としては今までの指示・命令との板挟みになってしまい、「どちらに従えば良いのか?」と混乱するわけです。
特に、後継者に年齢が近い若手社員が混乱することが多くあります。たとえ成果が出たとしても、実は信頼を得られないというケースが多いでしょう。なぜなら、ベテラン社員からすれば「自分たちが否定された」と受け取ってしまい話が通じなくなってしまうからです。
このようにして後継者が信頼を得られない場合、次に起こる勘違いをご説明します。
「なぜ、この素晴らしい改革案に賛同してくれないのか!?」「もっと成果を出してこそ認められるはず」…とさらなる結果を求めて改革を考える後継者が非常に多く見受けられます。
結果として、もっと目立つ成果を求めて、さらに新しい考え方や方法を導入することに躍起になり、周りが反対していさめたとしても、全く話が通じない状態になってしまうのです。
これがさらにひどくなると「今の社内には、ばかしかいない」「今の社員は不要! デキる社員を採用!」と、せっかく長年に渡り育て上げてきた社員を入れ替えていきます。場合によっては、後継者が「もう、やっていられない!」と言って、退職してしまうことも…。
このような事業承継を望まれるでしょうか?
これを避けるには、後継者が「自分が成果を出してこそ認められる」の勘違いから抜け出るサポートが必要です。
後継者が持つべき考え方とは。次回は、後継者が持つべき考え方「〇〇が成果を出せるようにしてこそ認められる」について解説します。
こばやし・えいき 1981年東京生まれ。2004年慶應義塾大学経済学部卒、ワークスアプリケーションズ入社(大手企業向けERPパッケージソフトの開発・販売)、06年銀座英國屋入社(25歳)、09年銀座英國屋代表取締役社長就任(28歳)、24年社長15年目。一橋大学MBA・明治大学MBA 組織論、青山学院大学ファッション-ビジネス戦略論、100年経営企業倶楽部のゲスト講師を務める。後継者育成相談協会理事長。