連載2023.11.29
10月21日から岐阜県高山市で開催された「飛騨の家具フェスティバル」のトークショー「ものづくり、ひとづくり、まちづくり~新たな価値の創出とは~」では、高山市長の田中明氏、アートディレクターで高山市議の戸田柳平氏を招いて、飛騨木工連合会代表理事の白川勝規氏とともに、新たな価値の創出について意見を交わした。白川氏は広葉樹の製材所の必要性を訴えた。進行は同連合会副理事長の北村卓也氏。
職人のヨコのつながり
白川氏は飛騨の家具の歴史について「飛騨の家具の歴史が始まったのは今から約100年前、飛驒産業さんの前身である中央木工さんが、加工性が悪くて炭にしかならず、当時は「木偶の坊(でくのぼう)」と呼ばれていたナラやブナを使って家具を作ったことから始まった。1300年以上の飛騨の匠の歴史の中で、一番新参者が飛騨の家具。春慶や一位一刀彫から進化して、飛騨の家具は匠の歴史を引き継いでいる」と説明した。
戸田氏は高山のものづくりについて「多くの職種の職人がいるが、横のつながりがおおらかに広がり、何かを生み出す熱量を感じるものづくりに適した町」であることを特徴として挙げた。
これを受けて白川氏は「お互いに情報交換したり、新しい機械が入ると『ちょっと見せて』、新しいボイラー入れたら皆さん見に来て『これいいな』という具合に連携がすごくとれている」と家具産地の中でも横のつながりがとれていることを強調した。
伝承は衰退、伝統は革新の連続
高山市は、飛騨高山ブランド認証制度や英ロンドンでの飛騨の匠の大規模な展示などを通じてブランド化を支援している。田中氏は「飛騨地域は歴史に翻弄されることなく独自の文化を育み、町人の文化が根付いてきた。市長になって改めて思うのは、ブランドは行政が前に出てやるものではなく、もちろんサポートするが、飛騨高山の頭や体に染みついているものを、いかにわかるように出していくかだと思う」と行政の立場を示した。
1841年に創業した「渋草柳造窯」の代表として、「伝承は衰退、伝統は革新の連続」という家訓に則り、伝統工芸を軸にさまざまな活動を行っている戸田氏は「まったくゼロの状態から生み出されることは本当に少ない。今あるものをどうブラッシュアップするか」という課題を提起した。白川氏は、飛騨木工連合会の代表理事を務めた関道朗氏(柏木工代表取締役会長)の「伝統も最初は最新だった」という言葉を引いて「最初は最新だったものが続けて作られる中で伝統になっていく」と受け、戸田氏も「伝統は必ずその誕生した瞬間がある。それがいろいろな方々の熱量や情熱、世間のニーズが相まって積み上がった結果として伝統と認識される」と述べた。
利用しづらい国有林の木
白川氏は飛騨高山の広葉樹利用の課題について話した。「林野庁が針葉樹に力を入れているのはわかるが、広葉樹には倒木になって二酸化炭素を発生するナラ枯れの問題があり、私たちはその広葉樹を切って家具にしている。そのことによって固定化させて二酸化炭素の発生を防ぐことができる。立木を一定期間、安定的に採取する樹木採取権制度も始まって徐々には進んでいるが、それ(国産広葉樹利用)が進まないのは、国有林からなかなか木を伐採できないから」と指摘した。
さらに「飛騨の家具は、飛騨の木でできていると本当は言いたいが、20%ほどしか国産材を使えていない。製材業を再生する必要がある。針葉樹と広葉樹の製材機器は刃物が違う。硬い木を製材するのは大変なこと。昔は飛騨に100社くらいあったが、今それができるのは4社ほどだと思う。なんとか行政の力も借りながら製材所を作っていきたいと、この2年ほど話をしている」と広葉樹の製材所の必要性を強く訴えた。
来年から森林環境税として一人年額1000円徴収される。高山市は、93%を占める市域の森林面積に応じて、森林環境譲与税として税金を配分されることになる。その使い道として田中氏は「いま議員の皆さんと一緒に考えているが、林業の川上から川下までサプライチェーンをしっかりとつないでいくということもある。使い道について、ぜひ皆さんに教えていただきたい」と述べた。
白川氏は、高山市議会の産業建設委員会が旭川の家具産地に行った際に、製材業者の規模と設備を見学して「こういったところがないと、材料は出てこないことを痛感して帰ってきた」というエピソードを紹介した上で、次のように重ねて強調した。
「森林資源をサステナブルに使っていく、しっかりと森林管理しながら使っていくために、林業と製材業の再生がなければ、われわれ飛騨の家具が、飛騨の木でなくなってしまうということになる。ぜひ森林環境譲与税を使ってこれを実現していただきたい」
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