連載2018.07.04
「家具業界は衰退していない」―。業界の重鎮2人が口をそろえた。日本家具産業振興会会長の加藤知成氏と、匠大塚会長の大塚勝久氏が家具業界の未来について語り合った。両者が家具業界をテーマに対談するのは初めて。業界の売り上げの落ち込み、特に厳しい小売りについて意見を交換した。
重鎮2人が「未来」語る
加藤氏は国内最大の家具メーカー、カリモク家具の経営者として業界をけん引し、業界団体の会長を5期に渡って務めている。大塚氏は、家具販売に革新をもたらした大塚家具を一代で築き上げ、現在も匠大塚のトップとして販売の第一線で指揮を執る。長らく業界を見てきた両氏の発言は示唆に富み、業界の活性化のために何が必要なのかを問う、大変意義のある対談となった。
メーカー、小売りの立場の違いはあるが、長く家具業界を見てきた加藤氏と大塚氏。かつての大塚家具はカリモク家具の製品を取り扱っていたが、40年ほど前に取引を中止した。販売手法をめぐる意見の相違だったが、時はたち、今回、「元気のない家具業界の今後のためにできることはないか」という思いが合致し、対談が実現した。
両者とも「業界は衰退していない」と発言。しかし「社会の変革とともに家具屋さんも変わっていかなければならない」(加藤氏)、「今こそ商品作りの現場を理解している販売員が求められている」(大塚氏)と語った。
安価家具の浸透、インターネット通販の拡大など、業界をめぐる環境が変化していく中、「メーカーと小売りが協力してお客さまに製品を提案していくことが大切」という意見で一致した。そのためにも加藤氏は「メーカーに対して小売り側がどんどん注文を付けてほしい」と語り、大塚氏も「匠大塚は工場を持たない『メーカー』として今後やっていきたい。そのためにも国内外のメーカーさんにご協力をいただきたい」と話した。
加藤氏は79歳、大塚氏は75歳。家具の世界で育ち、業界の歴史を見詰めてきた両氏は「今後も業界をもり立てていく」と固く誓い合った。
「特化」が生き残りの道 加藤
顧客忘れて間違った競争 大塚
―家具販売は年々売り上げが落ちています。本日は、家具業界団体の立場から加藤知成会長と、小売業の立場から大塚勝久会長に、衰退している家具販売業界の現状と、今後どうすれば家具市場を活性化させることができるのか、についてお話しいただきたいと思います。
加藤 私は業界が衰退しているとは思っていません。ただ、昭和の時代の家具と、平成の高度情報化社会の中での家具では考え方が違ってきています。今、ものづくりの基準が、JIS(日本工業規格)も国際規格のISO(国際標準化機構)にどんどん書き換えてきています。家具もISOの解釈にして、より国際的に開かれたものづくりへと変わっていかないといけません。従来の家具という概念のままでやっていると、道を間違えることになると思います。最近は、家具屋さんだけが家具を扱うわけではなくなりました。私の自宅近くにオープンした文具店でも家具を扱い、「これからの書斎の在り方」をテーマに展示しています。そういう意味でも、これからの家具屋さんは「こういう部門に特化しています」と言わないと成り立たない時代が来ているのではないでしょうか。
大塚 私も衰退ではないと考えていますよ。家具屋さんの数は少なくなってきました。なぜ、家具屋さんはなくなっていったのでしょうか。なぜ百貨店さんから家具が消えていったのでしょうか。そこには私たちも関係している原因があると思います。百貨店さんは坪単価を上げるために効率を優先しました。一方、安価な家具を販売するお店が増えてきたことで、家具屋さんは間違った競争をしてしまったのです。お客さまのニーズを無視して、お客さまを大切にすることを忘れてしまいました。そして、家具屋さんがなくなっていったと思います。私は昔から「良いものの価値を十分な説明で納得していただいて、値引きなしで売る」ことを商売の鉄則にしてきました。1978年の東京出店後に値引き販売を廃止して、実売価格の販売を開始しました。当時は価格を高めに設定して2~3割引くのが慣行になっていましたが、その慣行を破ったため、商品を引き揚げるメーカーさんが続出しました。しかし、今はそれが当たり前になっています。小売り、メーカーさんともに、その時代の役割があったということです。カリモク家具さんとの取引がなくなって40年になりますね。当時は取り扱いがトップでした。
―当時、業界の要請もあって加藤会長が大塚会長との直談判にいらして、決裂してしまいました。その翌日に全てのカリモク製品を引き揚げたそうですね。
加藤 正直言って、最大手の取引先でしたから、帰ったら父親に叱られましたよ(笑)。
大塚 誰が良いとか、悪いとかではなく、あの時は「分かってくれ」というのが無理だったのです。取引をやめる方もやめられる方も、お互い苦しんだのですよ。
販売員の教育に問題あり 加藤
メーカーに学び育てた 大塚
加藤 今の家具屋さんの話に戻しますと、従来のように、ものをただ押し付けるような販売をしていたら、お客さまは「どこで買っても同じ」ということになるのではないでしょうか。私は、本来の家具屋さんの在り方にみんなが立ち返らないといけないと思います。店は人の力によって成り立っているのです。最近は、家具屋さんの店員が工場見学をしなくなりました。どうやって家具の説明をしているのでしょうか。例えば「この品物はこのように作られているから、この値段です」とか「このメーカーさんは高い技術を持っているので、このような商品ができます」と言える販売員がどれだけいるのでしょうか。勉強をしない販売員が、お客さまの居住空間づくりをアドバイスできるのでしょうか。店員教育がきちんとできていないことが一番の問題です。正直言って、これは誰の責任かといいますと、私は大塚会長にもその責任の一端はあるのでは、と思っています。
大塚 私たちはメーカー工場のことを学んで、品質の良いものだけを売り、それによってメーカーさんを育てる仕事をやってきました。私たちがやってきたことを、よく理解していただきたいと思います。大塚家具時代も、今の匠大塚でも業界を大事にしてきました。そういう意味で、私どもにも業界への責任はあると思いますし、何とかしたいと思っています。
加藤 誤解を招いたのかもしれませんが、大塚さんは、ものを作るということについてよく理解されていると思います。会長のお父さまは、桐たんすを作られていましたから、製造現場のこともよくご存じです。だから大塚家具を大きくすることができたのだと思います。ただ、その体験が今の販売員たちに伝わっているのでしょうか。
大塚 大塚家具と匠大塚ほど社員が勉強した会社は、他にないと思います。今の大塚家具はよく分かりませんが。社員には「正しい勉強をしましょう」と教えてきました。昔、加藤会長に「世界中を見て歩いてきなさいよ」「恥をかいてきなさいよ」と言われたことがありました。この言葉、全部そっくり私は社員に伝えてきましたから(笑)。
加藤 これは失礼しました(笑)。
百貨店にもう一度家具を 大塚
本来「NO」はなかった 加藤
―百貨店さんで家具売り場がなくなって久しいですが、この影響についてどうお考えですか。
大塚 かつては私も百貨店さんと競争した時代がありましたが、これからは百貨店さんが扱ってくれないと日本の家具技術は駄目になってしまうと思っています。
加藤 百貨店さんの問題は、株式上場したことによって株主への配当責任を優先したため、お客さまのニーズに応えていくことがおろそかになってしまったことだと思います。商品開発もなくなってしまいました。昔は大塚さんもご存じのように、メーカーさんが製造した家具をお店でテストしていました。「ここを直せ、あそこを直せ」とメーカーさんに注文を付けて、テストで合格した商品だけを取り扱っていました。
大塚 家具業界に限らず、いろいろな業界で、百貨店さんがメーカーさんを育てたのですよ。その百貨店さんが、商品開発から関わらないので、自分の商品を持たない結果、問屋さんや一部のメーカーさんに頼ってしまうわけです。家具は生活様式の一部なのに、販売員が分野ごとに違うから百貨店さんではトータルに買えなくなってしまいました。つまり、一人の優秀な販売員が、ソファからダイニング、照明、カーテンまで全部販売することができなくなった結果、お客さまにご満足いただけないのですよ。なぜ、お客さまの満足を考えて家具を売っていた百貨店さんがなくなってしまったのでしょうか。これは家具業界の今後を考えるとき、重要な課題だと思います。
加藤 私は海外の家具屋さんについても調べました。そうすると、家具屋さんには本来「NO」はないのですよ。お客様から言われたことに対して、自分が分からなければ「調べてお返事いたします」と言わなければいけない立場なのです。ところが、そういうことをしなくなってしまいました。だから、店にあるものを何とかして押し付けることに終始するようになりました。そういう意味では、一番悪いのは百貨店さんだと思っています。
「メーカー」になろうと 大塚
買ってもらうのは「技術」 加藤
大塚 私は、販売店はもう、この春日部本店だけでいいと思っています。工場を持たない「メーカー」になろうと思っています。国内、海外のメーカーさんの工場と協力してやろうと思っています。75歳になりましたが、まだ夢はいっぱいありますから。本来なら「加藤会長、一緒にやりましょうよ」と言いたいくらい、まだ元気なんですよ(笑)。何とかしましょうよ。今の家具業界の販売に対する考え方は、価格訴求と効率化を重視しすぎているのではないでしょうか。
加藤 変えようとして今、一生懸命にやっているのですが、なかなか変わりません。「工場に対して一人一人何ができるのか」と、いつも問い掛けています。私どもは材料を売っているわけではありません。大きな設備を持っていても設備を売っているわけではありません。大きな土地を持っていても土地を売っているわけでもありません。人を使っているけど人材を派遣しているわけではありません。設備、人、土地を使い、要は人の技を使い、品物にして売っているのです。「質を上げ、人の名前で売れるようにしなさい」ということです。メーカーさんの工場の社員の名前で売れるような形にならないといけません。今、日本家具産業振興会としてIFFT/インテリア・ライフスタイル・リビングを主催していますが、出展者には「セールス担当者は来なくていい」と言っています。「じゃあ誰を配置するんだ」と反論されたら「社長、あなたが来て、自分のところの持っている技術を解説しなさい。こんな技術を使ってこの製品ができましたと説明しなさい。それをしないと技術を買ってくれないし、技術は使わなければ、さび付くよ」と話しています。
(続く)
【プロフィル】
一般社団法人日本家具産業振興会会長
(カリモク家具取締役相談役)
加藤 知成氏
かとう・ともなり 慶応義塾大学経済学部卒業後、1962年日本ガイシ株式会社入社、65年カリモク家具販売株式会社入社、67年同社取締役社長、2000年同社取締役会長、10年カリモク家具株式会社取締役相談役、09年社団法人(現・一般社団法人)日本家具産業振興会会長就任、14年に「国産家具表示」をスタートさせた。03年に社団法人(現・公益社団法人)インテリア産業協会会長就任、10年から副会長。04年11月藍綬褒章、15年旭日中綬章受章。
匠大塚株式会社代表取締役会長
大塚 勝久氏
おおつか・かつひさ 箪笥職人だった父のもとで、子供のころから家具販売の全般的な仕事にかかわる。埼玉県立春日部高等学校卒業。1969年に株式会社大塚家具センター、1972年には株式会社桔梗(現株式会社大塚家具)を設立した。2015年株式会社大塚家具代表取締役会長退任後、同年インテリアの総合プロデュースを行う匠大塚株式会社を設立し、代表取締役会長就任。2016年4月に日本橋、6月に春日部へ店舗を構える。
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