連載2020.04.22
オフィス・デコ(静岡市)の「obi:s(おびぃーす)」は、タンスに眠っている着物の帯を、艶やかな鏡面塗装仕上げのフレームに張った雅やかな特注椅子。代表の白井純子さんは今、介護施設で暮らすお年寄りに寄り添う椅子にしたいと思っている。
「施設の個室に自分の身の回りのものを置くといいと言われていますが、若いころに締めた帯を椅子にすることを提案したいと思っています」という。
開発のきっかけは今から10年前の母親の「タンスに眠る帯をリメークできればいいのに」という言葉だった。一方で店舗の内装デザインの仕事の際に、クライアントの椅子の張地を選ぶことが多く「帯を使うことができないか」と思っていた。2018年に商品化に踏み切り、ギフト・ショーに出展すると、大手百貨店の店長に評価され、SNSでも取り上げられて評判が広がった。
白井さんは「帯は丈夫な交織(こうしょく)で椅子の張り地としても適しています。小物にリメークするよりも、椅子に張った方が、伝統的な和の紋様や柄が面的に大胆に表現できます」という。「obi:s」の仕立ては、タンスに眠る帯か、同社が用意する帯を椅子に使う二通りの方法がある。
「亡くなったおばあさまの思い出の帯を椅子にして差し上げると、とても喜んでいただけました」と白井さん。祖母の帯で仕立てた椅子を祖父にプレゼントした息子夫婦もあった。「正座が辛くなっているおじいさまが、仏間でその椅子に座って手を合わせているとお話されていました」。
一つとして同じものはない手作りの特注椅子「obi:s」から、さまざまなストーリーが生まれている。「母が生きているうちに形にできればよかった」と白井さん。まだ椅子にしていない帯が残っている。
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