連載2020.03.18
積雪や凍結時でも安心して外出できる杖をつくってほしい―。自動車用鋳造部品の加工や工業用ゴム・スポンジ加工を行っていた越後工業(新潟県三島郡)が福祉分野に進出するきっかけとなったのは、雪の多い糸魚川の開業医から送られた1通の手紙だった。
今から20年以上前のそのころ、木川勇三(ゆうみつ)社長は、やがて訪れる高齢社会をにらみ、これまでの技術を生かした自社製品の開発ができないか考えていた。雪が降っても安全に外出したいという願いに応え、接地部分につけるゴムの滑り止めを開発して初の自社製品を実現した。
開発のきっかけとなった手紙の主、原田熊太郎医師から、車いすの問題点についてもアドバイスがあった。車いす利用者がベッドに移乗する際、大きな車輪が邪魔になって不自由しているというのだ。
まず開発されたのは「座助」。両車輪が開くという大胆な発想でつくられた。三方向から乗り降りできて、介護される人も介助者もお互いの負担が軽減される。
さらにベッドに横付けして自力でベッドに移乗尾できる車いすができないか。車に乗っていたある時、ふと隣の車の3分割されたホイールが木川社長の目に留まる。なんとそこから車輪の一部(3分の1)を着脱する方法を思いついた。スムーズな走行と車輪の一部を取り外したベッドへの移乗のしやすさを両立させる。技術力があるからこそできる発想だ。
着想から5年、世界初となる「開閉車輪」の車いす「輪助」が誕生した。
「車いすのイメージを夢がある楽しいイメージに変えたかった」と木川社長。介助なしで、自力でベッドに移乗したいという介護される人の夢を、培ってきた技術で見事に実現した。
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