ニュース2026.08.31
全国木材組合連合会総務部参与の板垣靖さんから「ぜひ新聞で取り上げていただきたい椅子がある」と話しかけられたのは4年ほど前。いつかお話を聞きたいと思いながら、取材できたのは今年の6月になってしまった。時を経た取材申し込みを板垣さんは快く引き受けてくれて、その椅子の出会いと思い出をつづった投稿まで寄せてくれた。
その椅子は、秋田木工(秋田県湯沢市)が得意とする曲木技術を駆使したブナのおしゃれなキッズチェアだった。製品名は「No.100R」。現在も販売されている。同社に確認すると「当時のことを知る者は退職しており、1985(昭和60)年以前に作られたものではないか」という。
「長女がまだお座りもできなかった1983年(昭和58年)、青森県五所川原市の家具店で、秋田木工の赤い子ども椅子に出会った」と板垣さん。青森県岩崎村(現在の深浦町)の深浦営林署(現在の津軽森林管理署 深浦森林事務所)に赴任して森林管理の仕事をしていた頃だった。もしかすると「No.100R」も、生まれたてだったのかもしれない。人と家具との長い旅の始まりだった。
「木の美しい曲線…軽くて扱いやすいのに、手に取るとしっかりとした強さがある。温かみのあるデザインを見て『これなら次の子にも使える』と思い、迷うことなく購入した」とその出会いを振り返る。板垣さんの妻と二人で赤い子ども椅子に一目ぼれだったという。
「やがて生まれた第二子の息子も、その椅子に座って育った。子どもたちが成長して椅子を使わなくなったあと、赤い椅子は妹の家へ旅立った」。そこで3人の子どもたちが順番に使ったという。さらに静岡市の親戚の家へ渡り、二人の子どもが座った。40年以上にわたり、なんと7人の子どもたちが使い、板垣さんが親戚に電話したところ「いまもすぐそこにあるよ。かわいいからリビングに置いている」と次の出番を待っているという。
「二人の子どもが毎日のように使い込んだにもかかわらず、壊れたところは一つもない」と板垣さんは、秋田木工の技術の高さに感心したという。
投稿には「これはもうただの家具ではなく、三家族の歴史をつなぎ、子どもたちの成長を見守り続けてきた、小さな証人に思えた」と書かれている。
秋田木工は1910年の創業以来、日本で唯一、曲木工法を専門として100年以上の歴史を築いてきた。剣持勇がデザインした椅子の名作など、息長く使われる多くのロングライフ製品を生み出してきた。
取材後の7月、「TIME&STYLE」ブランドを国内外で展開しているプレステージジャパンが、秋田木工を承継して12月に事業統合すると発表した。秋田木工の事業は2006年に大塚家具、22年にヤマダホールディングスが親会社となって受け継がれてきた。板垣さんに電話すると「長く受け継がれてきた職人技を絶やさず、また次の世代につないでいってほしい」と話した。
(加納)
板垣さんの投稿はhttps://kagunews.co.jp/page/detail/6928でご覧ください。
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