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★【アメリカ広葉樹輸出協会のAHA始動 ㊦】EUDRなど各国規制にも対応したアメリカ広葉樹保証プログラム 衛星による解析データも活用

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米農務省の農地データレイヤー。アメリカのすべての土地に関してどういう森林タイプなのか、またそこから実際に産出される産品は具体的にどういうものか網羅されてる。サイトはhttps://croplandcros.scinet.usda.gov/
AHAによる森林破壊の分析。アメリカで広葉樹を産出している、または生育している郡において、どれくらいの森林破壊のリスクがあるのか見ている

 アメリカ広葉樹輸出協会(AHEC)が発表したアメリカ広葉樹保証プログラム(AHA)は、2020年12月31日以降に森林が破壊されていない土地で生産された木材製品(森林破壊フリー)であることを保証するプラットホームとして、欧州森林破壊防止規則(EUDR)をはじめ各国の規制にグロ-バルに対応している。アメリカ広葉樹輸出協会環境政策担当ディレクターのルパート・オリバー氏は、都内のホテルで開かれたAHECの記者発表会で、AHAを確立した背景と、その内容について詳細な説明を行った。(写真撮影・提供:ウッドミック)

 アメリカ広葉樹は、米国内の何百もの小規模オーナーによる森林経営を母体としている。オリバー氏はその現状認識として「森林の中でも50%近くが成熟して樹齢が高くなっている。伐採すべき対象として多くの樹木が市場に出てきているが、生産レベルが低くなっている。いまこそアメリカ広葉樹のマーケットを拡大するよう努めなければいけない」として、EUDRなど国際的に規制が強化されるなかで、輸出拡大に向けたAHAの重要性を強調した。
 国際的な規制として、年末にも施行されるEUDRのほかに、カナダのWAPP(施行1993年)、米国レーシー法(同2008年)、豪州ILPA(同2012年)、日本のクリーンウッド法(同2017年)などがある。AHECは各国の法律を遵守するために、全国レベルでの調査研究を進めてきた。
 EUDRは木材のほかにゴム、パーム油、大豆、牛肉、コーヒー、カカオに適用される。木材製品には「森林劣化に寄与しない」ための要求事項がある。対象製品をEU市場に輸出、あるいはEU市場から輸出する企業は、その製品が2020年12月31日以降に森林破壊された、または劣化した土地から調達されたものではない「森林破壊フリー」であることを確認するためのデューデリジェンス(DD)を実施しなければならず、「各国のリスクレベルに関わらず、すべての木材の出どころや来歴に関して100%トラッキングをしなくてはいけない」(オリバー氏)。また、これらの製品が人権や、影響を受ける先住民族の権利の尊重を含めた生産国の関連法を遵守していることを確認しなければならない。

 「EUDRの文書そのものは130ページに及ぶ法的な文書になっており非常に複雑な内容だが、その背後にある考え方は非常にシンプル」とオリバー氏。「それは、規制を受けた製品は、ある特定のプロット・オブ・ランドという1つの土地の区画から来たものでなくてはいけない。その区画とは、2020年12月31日までに森林破壊が起こっていない土地で、そこから調達されたものでなくてはならない。こういう一つの考え方に基づいている」と説明した。
 EUDRでは、人工衛星を用いて、規制の対象になっているかどうかチェックを行う。「2020年をベースとした人工衛星のデータに基づくマップで、サプライヤーが提出する木材の地理情報と見比べ、森林破壊が起こっているかどうか判断して規制をかける。考え方としてはシンプルだが、実際にこれを手順として踏まえるということになると、さまざまな課題が発生する」として、人工衛星から毎年の更新情報を得るために莫大な費用がかかった事例や、木材のサプライチェーンの複雑さを挙げた。
 特に米国の森林経営は、小規模オーナーからなり、複合材や複合農産品もあることも課題として挙げ、出荷される一つの荷物のなかに、何千もの地理情報を含めなくてはいけないケースも懸念される。オリバー氏は、規制をクリアするためには膨大な量のデータが必要であることを指摘し「リスクが低いところは、そこまでのデータは不要なのではないか。(EUDRは)非常に革新的な試みだが、どちらかというと農産品、農作物に対してつくられており、森林製品、木材製品に対してあまりうまく設計されていない」と述べた。
 森林劣化についても、国際的な定義がないことを指摘した。さらに「時間のファクターが考慮されていない。森林が農地に転換されたかどうか、人工衛星データで確認しようとしても、実際にそれが明確になるのは数年かかる」ことも挙げた。
 非常に低いリスクの国もあるため、国別の分類を導入してリスクの低い国は、地理情報を必要としないようにすべき、という意見がEUの中にもあることを紹介した。AHECとしては国別ではなく、プロット・オブ・ランド(土地の区画)の定義を修正するだけで対応できると考えている。
 プロット・オブ・ランドは「生産国の法律で認められた単一の不動産物件内の土地である。その土地で生産される商品に関連する森林破壊および森林劣化のリスクの総合的なレベルを評価することが可能なものに、十分な均質な条件を有するとされているが、単一の不動産物件内の土地(within a single real-estate property)という表現を削除することで対応が楽になる」という。これは世界の73%を占める国有林には当てはまらない定義とされており、昔から住む人々が持っているような土地や森林も含まれてしまうため、適用が難しくなってしまうこと指摘した。

郡レベルでリスク評価
植物化学の検査も視野

 AHAはEUDRだけではなく、グローバルに適用できるプログラムとして考えられている。EUDRを参考にして、人工衛星データと最新の技術を用いて、米国の郡の単位で森林破壊フリーであることを示すことができるようになっており「このエリアのものであれば、品質は確かである。その出どころもはっきりしているということを意味する内容になっている」という。
 また、独立性のあるリスク評価に基づいた森林ガバナンスによる品質保証ができるようになっており「ブロックチェーンのトラッキングや植物、科学ベースの監視をさらに加え、全世界展開をしたいと考えている。ゆくゆくは従量課金という形で展開していきたい」という。
 AHAによって、人工衛星データに基づく郡レベルの森林破壊リスクを評価ができる。現在、製材を提供している37の州に関して、AHAが委託している独立系の評価者によって合法性のリスク評価が行われており、EUDRやほかの国々の規制に対応できるようになっている。スマート位置情報を活用して、郡レベルでその産品の期限を示し、出荷情報がわかる。より細かい情報も把握できるが、プライバシーやデータの秘匿性や反トラスト(競争法)関連の懸念につながることも考慮してるという。「こうした作業を行うことによって、EUDRをアメリカ広葉樹に適用する上で、より効果が高くなるのではないかと考えている」
 フェーズ1として既に、アメリカ広葉樹輸出業者が活用できるようにポータルサイトを用意して、EUDRなど各国の規制に対応できるようになっており、標準化されたデューデリジエンスのステートメントを作成することができる。
 フェーズ2として、2026年9月までに、グローバルな枠組みのウェブポータルと植物化学に基づく木材原産地検査を提供する。
 AHECは過去20年間にわたって合法性に関する情報、リスクアセスメントを行ってきた。すでに37の州で行っており、独立系の専門家が、リスクが取るに足りないレベルのものであるかどうかを18の指標で見ている。人工衛星のデータ解像度は10㍍単位まで精度を高めており、AIによる分析も行っている。

アメリカ広葉樹輸出協会環境政策担当ディレクター
ルパート・オリバー氏

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