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★【「夢を語る会」講演採録(上)】家の中に車が入ってくる 大変革に直面する自動車産業 元日産自動車COO 志賀俊之氏が講演

志賀俊之氏

 アジア家具フォーラム(阿部野育三代表理事)は6月3日、「第10回夢を語る会」をサンゲツ品川ショールーム(東京都港区)で開催した。INCJ代表取締役会長で元日産自動車最高執行責任者(COO)の志賀俊之氏が「大変革に直面する自動車産業、日本企業の戦い方」と題して、核心に迫る講演を行ったほか、伊藤忠(中国)集団首席顧問の池添洋一氏が「伸びゆく中国市場」、チヨダコーポレーション代表取締役の山中雅俊氏は「挑戦で眠りを変え、世界を変える」と題して講演した。
 2024年末に明らかになった日産自動車と本田技研工業の経営統合に関する協議は、合意に至らなかったが「これから皆さんもびっくりするようなニュースを自動車業界の中でたくさん見ることになります」と志賀氏は切り出した。世界のトップを走る日本の自動車産業に、今後なにが起こるのか、100年に一度と言われる大変革について、まず馬車からフォードなどガソリン車量産の時代へと移り変わっていった過去の変革の歴史から入った。
 米国のテスラや中国のBYDといった電気自動車(EV)の台頭、それに対抗するための業界の合従連衡の動きは、まさにその大変革の時代にあたるものだという。志賀氏は「CASE」と呼ばれる現在の100年に一度の変革について説明した。ケースの「C」はコネクティッド(Connected)。自動車のIoT化を指す。
 「今はインターネットに常時接続されている車はほとんどないが、これからは全ての車がつながっていく。つながるだけではなくて、スマホやPCと同じようなサービスが提供される。車の中にもAIが入ってきて、例えばレストランを予約すると同時に近くの駐車場を探してくれて、ここ空いてますよって教えてくれるようなサービスがコネクティッドの世界でどんどん展開されていく」
 EVの普及の壁となっているのがバッテリーのコスト。ガソリン車のエンジンコストは、量産によってかなり落とされているが、バッテリー一つで180万円ほどかかるケースもある。
 一方で、今後はEVが暮らしの中の一つのスペースとして活用されるという家具業界にとっても興味深い話を志賀氏は紹介した。
 「ガソリン車は家の外に置きますが、面白いのは、これからEVが家の中に入ってくるということ。車載のオーディオは、とてもいいものを使っています。リビングと駐車場がつながると、車の中で音楽を聞いたり、映画を見たりする個人のエンターテインメントスペースになり得ることです。介護施設では、車いすを使わずにそのまま施設の中に入ることもできる。排気ガスを出さないことによって、家の中と外の境界が大きく変わると思います」
 製造方法の変革についての話も衝撃的だった。テスラやBYDは、自動車メーカーがこれまで気付かなかった製造方法を導入しているという。その一つがフロアパネル。
 ガソリン車やディーゼル車は、小さいパネルを溶接でつないで1枚のパネルにして、多様なエンジンに対応できるようにしている。エンジンがモーターのみのEVは、大きなダイカストマシンでフロアを一発で鋳造するという変革をテスラが起こした。
 「この発想は日本の自動車メーカーでは絶対出ないのです。車体設計する設計メンバーと、バッテリーパックの設計メンバーは部署が違う。新興のメーカーは、0か1かで物事考えていく。正直言って、日本のEVは技術的に完全に負けている。これを認めるところからスタートしなければならない」と訴えた。
 「自分たちの技術に対して自信も誇りもあるから、それに固執するわけですが、新旧入れ替えの大きなダイナミズムが起きている時は、0か1かの全く新しい発想でものを作っている。実は、自動車の130年の歴史の中で、ついに破壊的イノベーションが起こりはじめてしまった」
 自動車も「スマホやPCと同じようなサービスが提供される」という志賀氏はここで、車にやがて搭載される「オーバージエア」について説明した。無線経由でソフトウエアやファームウエアを遠隔から更新する仕組みだ。
 ソフトウエア・デファインド・ビークル(SDV)は、車と外部との間の双方向通信機能を使って車を制御するソフトウエアを更新し、販売後も機能を増やしたり性能を高めたりできる自動車のことを指す。電気自動車はSDVとの親和性が高く、自動車のビジネスモデルを変えていくという。
 「売り切りモデルから、車を買った後から、どんどんソフトウエアを追加して、それに課金をするというシステムになってくる。実はテスラは10年以上前からやっている」。スマートフォンやパソコンのOSのように寡占化によって、合従連衡しないと競争に勝てなくなる。さらに、AIによる自動運転技術も進化している。
※後半は次号10月8日号とweb家具新聞に掲載します。

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