ニュース2024.06.14
1949年に双葉製作所として創業したフランスベッドは、今年75周年を迎える。56年に日本初となる分割ベッド「フランスベッド」を発売して大ヒット。日本のライフスタイルのパイオニアとして走り続けてきた。代表取締役社長の池田茂氏に、その歴史と家具・インテリアの未来について聞いた。
洋風の扉開けたソファベッド
――フランスベッドを創立された池田実氏は、池田社長の父親でもありますが、どのような方だったのでしょうか。
とても怖い人でしたね。当時は今のように、親のしつけとして手を上げるのは良くないという風潮はありませんでしたから、小学校6年生あたりまで、父親が家に帰ってくると怖くてすぐに逃げていました。
父親は戦後、台湾から九州に戻ったのですが、裸一貫も同然、山を開墾して畑を作るだけでは食べていけないと東京の家具メーカーに勤めました。やがて東京都三鷹市に双葉製作所を立ち上げ、当初はオートバイやスクーターのサドルを作っていたのですが、さらに利益を上げるために一般消費財を作ろうということで、ソファベッドを開発しました。後にそれが「フランスベッド」として命名されたのです。一流ブランドを多く輩出しているフランスは憧れの的だったので、そのイメージにあやかり、社内公募で決まった名前でした。しかし、最初はこれが全く売れなくてね。
――これから日本に洋風のライフスタイルが普及していこうという時代ですね。
百貨店に並べたのはいいのですが売れなくて、陰で私の母親が売り場にベッドを買いに行ったこともあったほど苦労していました。そこで父親は、フランスベッド販売という訪問販売の会社を立ち上げ、大卒でも仕事にあぶれていた頃だったので、多くのセールスマンを雇い入れました。
ほとんどベッドは使われていなかった時代でした。しかも価格は、当時のサラリーマンの月収では手が届かないほど高価でした。そこで、商品の予約を事前に受け付け、お金をためて買っていただく予約販売の免許を取ってね。当時はミシンの販売でよく使われていたこの手法が成功してベッドが売れはじめ、1961年に社名もフランスベッドに変更しました。やがて、家具専門店でも取り扱われるようになり、訪問販売をしのぐ勢いで売り上げが伸びていきました。
――訪問販売と比べると今の家具販売は、販売形態として家庭との距離が離れているとも言えますね。
北海道から九州まで、家庭だけでなく、公共施設から病院まで軒並み訪問して市場を開拓したわけです。ところが、婚礼家具の時代が過ぎてから、家具産業は右肩下がりになり、人口減少と高齢化が進む未来を予測して、私は早くからレンタルビジネスをスタートさせたのです。
親が亡くなり、買った介護ベッドを下取りしてほしいという息子さんの依頼がそのきっかけでした。レンタルビジネスを独立させ、1987年にフランスベッド販売を吸収して私が立ち上げたのがフランスベッドメディカルサービスという会社で、後にフランスベッドと合併しました。
高齢者は家具を買わない
――日本の家具業界は輸出の動きが活発になっていますが、今後の展開についてはいかがですか。
ベトナムは平均年齢が若い国ですから、基本的にはベッドを販売していきます。これから高齢化が進む国には、メディカルを柱に据えながら、サービスの付加価値をつけて、レンタルビジネスを輸出しようと思っています。例えば中国の場合、日本円がまだ高かったころは、現地で工場を造る選択もありましたが、円安が進んでいる今は、コストもかかりますからね。
団塊の世代が頑張っていた時代は、高級家具も売れていたのですが、その世代が高齢になると、買う余裕はあるのかもしれませんが、もう欲しくはなくなってしまい、家具までお金が回らなくなる。だから、家具販売の先行きは厳しいですよ。
国内のマーケットは人口減少によって縮小していくので、それをカバーするためにも、みなさん海外に出ていこうとするでしょうね。家具が売れないわけですから。もちろん、売れないからと言っても、いろいろと考えているわけで、諦めたわけではありません。高齢者は家具を買わないかもしれませんが、需要はあるのです。そこに人がいるわけですから、売り方を考えて、知恵を絞らないといけません。
例えば、老人ホームにこれまで使っていた家具を持っていきたいけれど、部屋が狭すぎて入らないということがあります。また、余生を過ごした後に、それまで使っていた家具をどうするか。あるいは、残された仏壇をどうするか。これもまたお金がかかって大変なことで、施設側でも頭を抱えている問題です。
そこで私は、老人ホームでこれから暮らそうという方々のために、ベッドなどの家具から家電製品まですべてレンタルするサービスを考え、昨年の10月にテスト販売をスタートさせました。家具すべてを施設向けに開発し、素材には、籐のような軽くて傷がつきにくい素材を使っているのが特徴です。高級な家具が欲しいという方に向けた家具も開発しています。レンタルサービスのメニューには、仏壇まで用意しています。
――フランスベッドは、日本に洋風のライフスタイルをもたらした先駆ですが、現在進行形でライフスタイルの変化に敏感にアンテナを張って市場をよく見つめていますね。
いまは高齢者に向けたサービスに力を入れています。レンタルビジネスは、3年後には売り上げの50%までもっていこうと考えています。
老人ホームを見学したことがあるのですが、手近なお店で買ったリーズナブルな家具が揃えられていてがっかりしたことがありました。一度はこの家具レンタル事業を諦めようと思ったのですが、私の身近で亡くなった方の、家具の始末の大変さを目の当たりにして事業化しようと決心しました。
つい最近ですが、私の母親が買いに行っている化粧品店を見学に行ったのですが、高価な乳液を扱っていて「こんな高価なもの誰が買うのですか」と聞いたら、私の母親だと。家に帰って尋ねたら「買っちゃ悪いの?」と怒られました(笑)。
老人ホームに足を運ぶと、家具だけではなくて、化粧品やかつらなどさまざまな需要があることがわかります。百貨店の化粧品売り場でよくやっているメークも、老人ホームでサービスしたら喜ばれると思います。
いけだ・しげる 1973年フランスベッド入社、91年同代表取締役副社長、99年同代表取締役社長兼営業本部長、フランスベッドメディカルサービス取締役会長、2001年フランスベッド代表取締役社長、2004年フランスベッドホールディングス代表取締役社長、11年公益財団法人フランスベッド・メディカルホームケア研究・助成財団(現公益財団法人フランスベッド・ホームケア財団)代表理事理事長、12年江蘇芙蘭舒床有限公司董事長、19年フランスベッドホールディングス代表取締役会長兼社長
フランスベッドの歴史
1949年~
1949年、東京・三鷹市にフランスベッドの前身「双葉製作所」が誕生。60年には分割ベッドの製造を開始、61年に社名を「フランスベッド」に変更。
1970年~
1983年、フランスベッドより独立した「日本衛生寝具株式会社」が、「フランスベッド販売株式会社」にレンタル事業部を創部。87年、両者を合併した「フランスベッドメディカルサービス株式会社」がスタート。
1990年~
少子高齢化が注目され始めた1990年代から、介助者・要介護者のサポートに対してさらに力を入れ、2009年には、フランスベッドと、フランスベッドメディカルサービス株式会社が合併した。
2010年~
より多様化する人々の価値観や生活様式に応えるため、特定のニーズに合わせた多角的な商品開発もスタート。11年には、アクティブシニア向けのブランド「リハテック」も発表した。
(フランスベッド・ウェブサイトより)
家具家電レンタルサービス フランスベッドが2023年10月に試験的にスタートさせたサービス。サービス付き高齢者向け住宅や有料老人ホーム向けに、家具や家電のレンタルを行っている。施設利用者は、入居時に家具や家電を購入する必要がなく、退去時にも引き上げや処分費用がかからず、経済的負担を軽減できる。
施設側は、利用者が退去する際に不要になった家具や家電の処分作業に伴う手間や費用がなくなる。レンタルによる家具・家電の再利用によって環境負荷も軽減できる。
最低レンタル期間は6カ月。レンタル対象商品は、ベッド、テレビなど15アイテム。
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