ニュース2022.07.11
国産材の安定供給体制の構築に向けた中央需給情報連絡協議会の本年度第1回会合が6月21日、学識経験者や林業・木材業界関係者、林野庁など行政機関が参加してオンラインで開催された。会合では、昨年来のウッドショックに加えて、ロシアのウクライナ侵攻により木材の輸出入環境が変化するなか、国産材への転換と安定供給体制の構築について行政側からの情報提供や地区別需給情報連絡協議会からの報告と意見交換が行われた。
会合では冒頭、林野庁の齋藤健一木材産業課長が「木材需給の不透明感が増している中、国産材の安定供給体制の構築が求められている。私どもは、全国木材組合連合会のご協力をいただきながら(国産材転換支援緊急対策事業)全メニューの公募を開始するなど、対応を急ピッチで進めている。こうした中、日本林業協会をはじめとする川上・川中の主要団体が、国産材の安定供給体制の構築に向けた共同行動宣言を出したことは非常に意義深い取り組みと考えている」と挨拶した。
このあと宮崎大学農学部の藤掛一郎教授を座長に議事に入った。はじめに林野庁木材貿易対策室ならびに国交省住宅生産課木造住宅振興室から木材の輸出入や需給状況、これに対する政策などについて情報提供が行われた。
ロシアの単板禁輸で
国内合板へ影響注視
【林野庁からの情報提供】
今年1月~4月の木材輸入額は、昨年、一昨年と比べると大きく増加。品目別の輸入量も、丸太が若干減っている以外は、製材、合板、集成材とも昨年より上昇している。
国・地域別に見ると、北米からの輸入量は、米国の丸太、カナダの製材ともに減っている一方、欧州からの製材、集成材はかなり増加している。
ロシアからの製材輸入量は21年度を上回っているものの、今年4月は3月に比べて大きく減少した。ロシアで製材の次に多い単板は、ウクライナ侵攻の関係でロシアが輸出を止めたため4月の単板輸入量はゼロになった。合板輸入量は昨年、一昨年より若干が増えている。
21年のロシアからの木材輸入の内訳は、製材が約7割。続いて単板、集成材という順番になっている。国産材を含めたわが国の製材全体の中で、ロシアの製材品は約5・2%を占めている。同様に集成材は0・5%で、合計するとロシアからの製材、集成材は5・7%程度となっている。
また、わが国の合板材料のうちロシアの単板が占める割合は2・3%程度だが、これは主に針葉樹合板のフェイスバック(表材と裏材)に使われているので留意が必要。
ロシアのウクライナ侵攻後に取られた輸出入措置は、まず3月9日に、ロシアがわが国を含む非友好国に対してチップ、丸太、単板の輸出を禁止した。
わが国は4月に最恵国待遇を撤回することで一部製材の関税が4・8から8%に上がった。さらにチップ、丸太、単板を輸入禁止とした。6月には、わが国からロシアに対して針葉樹単板を輸出禁止とした。
原木は高水準で推移
木材価格は横ばいか
スギの原木価格は、ウッドショックにより21年4月以降、上昇し、現在も前年同期比88%から145%と高い水準で推移している。ヒノキもスギと同様に21年の4月以降、急上昇した後に一時期下落傾向が見られたが、現在も例年に比べ高い水準で推移している。直近では2万円台前半から後半、前年同期比92%~144%となっている。
一方、製品価格は21年4月以降、急上昇した後に、国産品はピーク後下落の動きもあったが、現在は輸入材とともに、いずれも高止まりの状況になっている。構造用合板は南洋材、国産材ともに価格の上昇が続いている。
原木の在庫量は増加傾向にある。コロナの影響があった20年の出荷量は少なかったが、21年はウッドショックでフル稼働の状況。今年1月~4月の出荷量は、コロナの影響がなかった19年同期の95%に回復している。合板はここ数カ月、原木在庫量を増やす動きがあるように見える。
一方、製品の在庫量は例年に比べて少し低い水準で、今年1月~4月の出荷量累計は19年比で97%。チップは全体として原料の在庫が減少傾向にあるように見受けられる。
全国の住宅着工戸数は、昨年は85・6万戸で前年比105%。今年1月~4月の新設住宅着工戸数は27・6万戸で、前年同期比104・2%。このうち木造は同99・4%となっている。
木材価格についての今後の見通しについて、全国7地区の需給連絡協議会へのアンケート結果では「横ばい」が売り主、買い主ともに4~5割程度で、昨年12月の前回調査(3~4割)より増えた。量についても「横ばい」が占める割合が6割と高く、今後大きな変動はないという見方が多い。
原木や製品運搬など
国産材の普及を支援
国内の木材需給は、昨年来のウッドショックの影響で価格が高止まりのところに、今般のロシア、ウクライナ情勢の悪化を受けて、制裁措置などによるロシアからわが国への木材供給の停滞・減少で、今後さらに国内の木材需給がひっ迫する恐れがある。
そこで林野庁は各都道府県に対して、交付金事業とともに、4月に政府が決定した予備費を活用した経済対策の中で、ロシア等からの木材輸入減少により、不足する建築用木材を緊急的に確保するために国産材転換支援緊急対策事業を措置した。
事業は全木連が運用することとなっており、予算額は40億円。ロシア材から国産材への転換を図ることで、さらなる国内への木材需給等への影響が生じないように対応していくため①国産材製品の増産に伴う原木・製品の運搬や一時保管②国産材製品への転換を図る設計・施工方法の導入や普及―を臨時的に支援することとしている。
原木や製品の運搬・一時保管緊急支援の事業は、遠方の原木供給地からの運搬経費を支援することに併せて、製品を需要地へ運搬するための経費についても支援する。一時保管緊急支援は、増産した原木、製品の一時保管に必要な経費を支援する。
運搬支援のスケジュールは今年4月28日から7月31日までの取り組み内容について、助成希望者は計画を7月20日までに事前の事業登録として全木連に提出する。一時保管緊急支援については、4月28日から9月末までが取り組み期間となっていて、計画書の提出は9月20日までに県木連などに提出することとなっている。
事業の詳細は全木連ホームページ(https://moku-tenkan.jp/)で確認できる。
木造住宅建築費上昇
省エネ住宅など支援
【国交省からの情報提供】
改正建築物省エネ法が6月17日に公布された。内容は省エネを加速させるため新築住宅、非住宅に省エネ基準を義務づける。ストックの省エネ改修や、再エネ設備を導入、促進していくという内容。もう一つの大きな柱として木材利用の促進へ、防火規制の合理化や構造規制の合理化などを盛り込んだ法改正となっている。今後それぞれの改正項目に応じて、早いものは3カ月、遅いものでも3年以内に施行される。
国土交通省関係では、主に川下側の住宅への対応となる。
木材価格が高止まりしていることから、対策の一つは中小工務店の資金繰りへの支援という形で日本政策金融公庫等の相談窓口を紹介している。
もう一つは中長期的な課題として、川上・川中・川下が連携して安定的に木材が確保できる取り組みとして、地域型住宅グリーン化事業を拡充した支援を昨年に引き続き、本年度も続ける。
木材だけでなく、いろいろな資材が高騰している状況にあり、建設物価指数によると、木造住宅の建築費は2年前と比べて2割上昇している。こうした中で住宅価格が上がって住宅市場が冷え込んでしまうことが懸念される。
こうしたことから、こどもみらい住宅支援事業を昨年の542億円に、本年度600億円さらに積み増した。これにより子育て世帯や若者夫婦世帯の住宅取得にともなう負担軽減や、高い省エネ性能を有する住宅等の供給を支援して、良質な住宅を下支えしながら供給を確保すべく取り組んでいる。
いずれにしても川上・川中・川下がそれぞれの立場で連携していくことが重要だと考えている。
【林野庁木材産業課の齋藤健一課長あいさつ要旨】
昨年度の最後の中央需給情報連絡協議会の際にはまだ、ロシアによるウクライナ侵攻という自体が発生していない状態で昨年来のウッドショックの話を中心に議論させていただいたところでございますが、その後、木材需給の状況におきましては非常に不透明感が増していると言えると思います。国産材に求められているのは安定供給体制の構築だとういことを改めて強く感じているところでございます。そのためには今後の川下側の安定需要が継続していくことが前提とはなりますが、国産材がこれだけ求められるという状況というのはなかなか今までにない展開ではなかろうかというふうに感じております。
年明け以降、ロシア・ウクライナ情勢が変化する中で、私どもといたしましても様々な対策を講じております。令和3年度の補正予算、あるいは令和4年度の投資予算に加えまして、このたび4月の末に閣議決定をいたしました、令和4年度の予備費、こちらもですね、全木連さんのご協力もいただきながら、全てのメニューが先週末までに公募開始ということで対応を急ピッチで進めているところでございます。
こうした中で、去る6月1日には日本林業協会をはじめとして、川上、川中の主要団体の皆様が時代の要請に応える国産材の安定供給体制の構築に向けて、という事で、共同行動宣言を出されました。これは非常に我々としては意義深い取り組みではなかろうか、というふうに思っております。
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