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★針葉樹ファースト脱却へ 林野庁有志が動いた「里山広葉樹」利活用と再生への挑戦

里山に自生するコナラ。かつては燃料として使われた
林野庁国有林野部長の長崎屋圭太氏

 林野庁は、里山広葉樹の利活用と再生に向けたプラットフォーム「里山広葉樹利活用・再生推進機構(仮称)」の発足準備を進めている。国産広葉樹の活用機運が高まる中、川上から川下までの現場を取材して、地域の現状と課題を整理して伝える連載を開始する。第1回は「里山広葉樹利活用推進チーム」を立ち上げた林野庁国有林野部長の長崎屋圭太氏を迎え、具体的なアクションやプラットフォームの全容について解説する。

官民一体の森の維新
国産広葉樹の未来図
――――――第1回


 2024年度に立ち上がった「里山広葉樹利活用推進チーム」は、部署の垣根を越えた約30人の若手・中堅職員が参画し、従来の「針葉樹ファースト」だった行政のあり方を変えるべく、極めて具体的でアグレッシブな横断活動を展開している。
 1994年の創刊から30年以上にわたって林政を追い続ける専門メディア「林政ニュース」編集長の辻潔氏は「有志によるこうした活動は極めて珍しい。これからの活躍が期待される」と話す。
 「令和4(2022)年度から庁内のどんぐり好きが集まった有志の勉強会を行っていた」と林野庁国有林野部長の長崎屋圭太氏は振り返る。その集まりが本格的な政策として動き始めたのは24年。有識者による里山広葉樹利活用推進会議(関連記事参照)立ち上げへとつながった。
 長崎屋氏はそのきっかけについて「里山の整備が全くなされなくなって、ナラ枯れや竹林侵入など、山が荒れている」ことを挙げた。
 「針葉樹施策だけだと、どうしても取り残される市町村があるという意識があった。ボリュームのある針葉樹製材の一方で、地域の灯を消さないよう小規模製材をなんとかしたい。広葉樹は難しいところがあるが、付加価値のところで、まだやっていける世界があるのではないかと思った」
 その難しさとは、少量多樹種の広葉樹を全部活用しないと川上側の採算が合わないことだった。
 里山広葉樹利活用推進会議は、里山を利活用する社会的な意義について「生物多様性の回復」「地球環境の保全」「地域経済の活性化」「林業・木材産業の持続性の向上」の4点にまとめ、政策提言を行った。
 「山側は今どういったものが売れているのかということを全く知らない。利用する側はどんな木が出てくるかさっぱりわからない。情報流をしっかりとつくるために、里山広葉樹再生のためのプラットフォーム立ち上げを提言した」
 家具など広葉樹は生活の身近にあることもあって「里山広葉樹利活用推進チーム」は、女性も数多く参加している。有識者会議の提言を踏まえて同チームは2025年、プラットフォーム設立に向けて多彩な活動を行った。
 その一つが、広葉樹の利活用に取り組む全国81社へのヒアリング。この調査によって課題を浮き彫りにした。
 さらに、森林生態系多様性基礎調査の結果をもとに、広葉樹資源量を樹種別、大きさ別、地域別に分析・公表した。どこにどのような広葉樹がどれくらいあるのか、基礎資料が公表されたのは初めてだった。
 都道府県・市町村職員と民間事業者に向けて企画した広葉樹利活用の研修では100人を超える受講生が集まった。「森林環境譲与税もあって、市町村で地域の広葉樹をどう活用するか、関心が高まっている」と長崎屋氏。
 さらに、今後の広葉樹育成の参考資料として、里山広葉樹の造成や更新などに関する約130の文献を整理して一覧化した。
 スマートフォンを使ったアプリによる樹種判別が難しいことから、AIを用いた樹種識別精度の向上も行っている。
 なぜ庁内の部局を横断するチーム編成になったのか。
 長崎屋氏は「里山広葉樹は課題が山積みだがやることは一つ。それは里山広葉樹の利活用を通じて里山を再生すること。この施策は既存のどの課にもすんなりとは落ちない性質のものだった。チームで動くので仕事もすごく早い。トップダウンではなく、好きな人が集まる部活的な活動があってもいいのではないか」
 里山広葉樹利活用・再生推進機構の設立については、一般社団法人化も視野に入れている。その上で行政としてやるべきことは「国有林の現場にこの仕事を落とし込んで、小面積でも計画的に広葉樹を出していくこと」と長崎屋氏は考えている。

「情報の断絶」埋めるプラットフォームを構築
有識者が提言した里山広葉樹活用プランとロードマップ


 2024年に外部有識者12人からなる「里山広葉樹利活用推進会議」が設置された。同年11月に岐阜県飛騨市で第1回の会議が開催され、合計3回の会議の後、翌25年3月、同会議による「里山広葉樹林の利活用を通じた再生に向けての提言」が発表された。
 同会議のメンバーはカリモク家具社長の加藤洋氏(当時は副社長)、飛騨市の都竹淳也市長、モリアゲの長野麻子代表、朝日ウッドテックの海堀哲也社長のほか、森林総研、森林組合、木材流通組合の代表ら12人が名を連ねている。
 かつて里山は燃料、農具や住居に必要な資材、山菜・きのこなどの食料、農業肥料用の落ち葉など地域住民の生活に密着していた。コナラやクヌギは20年程度のサイクルで利用されていたが、1955年ごろからの燃料革命などによって里山山林の利用は衰退し、広葉樹の伐採量は激減して、里山林の多くが放置されることになった。
 この結果、ナラなどの樹木は成長により高齢化・大径化して樹木の生育環境が悪化。ナラ枯れ被害、野生動物とのあつれき、竹林の侵入拡大といった事態を招いている。
 全国の放置里山林は約300万〜400万㌶に上る。これは日本の人工林面積約1000万㌶の3分の1に相当する数字であり、国土や環境の保全上の影響が懸念されることを提言では指摘している。
 林野庁の木材統計によると、2023年の広葉樹の伐採総量は約200万立方㍍。1960年の2600万立方㍍から10分の1以下に減少している。
 国内の広葉樹材需要(約2400万立方㍍)の中で国産広葉樹の占める割合(自給率)は1割程度の約250万立方㍍。輸入広葉樹材は、2割以上が付加価値の高い家具や合単板などの製品用途であるのに対し、国産広葉樹材の製品用途は5%以下にすぎない。
 提言ではこうした現状を踏まえて、里山広葉樹活用に向けた大きな課題として、需要側と供給側の情報の断絶を指摘している。同会議では里山広葉樹再生に向けて、各地域の取組への支援を強化しつつ、全国レベルのプラットフォームを構築することを提言した。
 地域の遊休工場の再生など、広葉樹の利活用を念頭に置いた支援メニューの拡大や人材育成、家具用材やほだ木など用途に応じた効率的な作業システムの構築を具体策として挙げた。
 広葉樹は多様な樹種からなることから、伐採・再生はプロダクトアウトにならざるを得ない。一方で地域の広葉樹材が製品として市場の評価を得ていくためには、マーケットイン、つまり顧客のニーズに応えたり、困りごとの解決に資する商品を作っていくことが必要となっている。
 同会議では、森林側がマーケットに積極的にアプローチすることで、需要側のニーズの発掘と里山林への理解につなげ、最終的に需給のミスマッチを解消していくことが肝要であり、これを実現するための基盤となる情報を共有する場として、『里山広葉樹利活用・再生プラットフォーム』の設立を提言している。
 参加者のイメージは、里山広葉樹林の計画的な伐採・再生に取り組む団体(地方公共団体、森林組合、林業経営者、素材生産事業者等)と広葉樹材を利用する者(建築・内装材・家具・フローリング・楽器・伝統工芸製造業、加工・流通事業者、きのこ生産者・種菌メーカー、薪炭製造業など)、生物多様性保全への貢献等に関心のある民間企業・消費者団体など。
 すぐに取り組むべきことは▽里山広葉樹の立木伐採予定情報(樹種、径級など)、市場で取引されている原木の市況情報や流通している材の品質の共有▽家具メーカーや材木店、きのこ生産者等が欲している木材情報等の共有▽供給側と需要側の交流とビジネスマッチング、およびマッチングに必要なコーディネーターの育成―など。
 発足後2~3年先から取り組むべきこととして▽建築家やデザイナーなどの需要者からの相談の受付▽広葉樹材の伐採・造材・仕分けや、加工・流通、里山広葉樹林の管理等に関する人材育成や相互研さんの実施▽広葉樹林の管理や利用による生物多様性保全への貢献などプラスのインパクトを定量的に評価する指標の検討――を挙げている。

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