ニュース2026.02.20
2025年は、文章や画像、音声などのコンテンツを自動で作ることができる生成AI(人工知能)の活用が飛躍的に進んだ年と言えるだろう。米国、欧州、中国も相次いでAI活用に向けた計画や戦略を打ち出している。後れをとっている日本は昨年「AI基本計画」を初めてまとめ、開発力の強化と政府が率先して活用する方針を示した。こうしたデジタル技術を、家具をはじめとしたインテリア業界でどう活用していくのか。インテリア業界のデジタル活用について、nat上級顧問兼町田ひろ子アカデミー校長の町田ひろ子氏と同代表取締役社長の劉栄駿氏にnatの新オフィスで語ってもらった。
両者の出会いとシナジー効果
――natがなぜ町田ひろ子アカデミーの事業を継承することになったのか、両者の出会いについてまずお話ください。
劉 スキャナットの開発を先に進めるために建築設計事務所を探していたときに、町田ひろ子アカデミーで、インテリアコーディネーターとガーデニングプランナーを養成する教育事業が行われていることを初めて知りました。
インテリア業界は、デジタルツールを活用する体質になっていないため、スキャナットの浸透に時間がかかると思っていました。教育を通じてそうしたツールを活用できる人材を育成すれば、業界が変わっていけるのではないかと思いました。
町田 コロナ禍の中でも、私はアカデミーの教育を通じて人を育てることに力を注ぎ続けました。それが収まったところで、年齢のこともあって事業承継のことを考えるようになりました。さまざまなお話をいただいていたのですが、採算性を優先したものばかりで、やはり学校を畳むべきなのだろうかと諦めかけていたときもありました。
そんな時に大変ありがたいと思ったのは、娘の瑞穂ドロテアの存在でした。彼女はスイスで生まれ、私と一緒にいろいろな国を体験してきたので広い価値観を持ち、IT系にもとても強かったわけです。アカデミーの若手スタッフと一緒にネットから探してくれて出会ったのが劉社長でした。私はテクニカルなことや、効率性ばかりの話は苦手なのですが、劉社長は最初にお会いしたときから全く印象が違いました。
「必要は発明の母」という言葉があるように劉社長は、マンションに移転する際にご自身で選ばれる家具の寸法の問題があって、そのソリューションとしてスキャナットを開発されました。これこそエンドユーザーのシンプルな疑問に応える「ものづくり」の原点です。natは同じ価値観を共有してシナジー効果を生むことができる会社だと思いました。
ユーザー目線の発想が大切
――これからインテリアの世界をどう変えていくのでしょうか。
劉 欲しい家具をどこから探し、どうやって買うのか。私は一般消費者の購買体験を根本的に変えたいと思っています。家具を選ぶ際、紙のカタログが依然ベースになっており、自分が知っている範囲の購買体験になっているからです。衣食住の中で衣服や食べ物は、新聞を読むのと同じように、自分が知らない情報と出合う機会が多くあります。家具や空間においてもそういうものがあってもいいのではないでしょうか。
町田 社長はユーザー目線でシンプルな発想ができる方だと思います。以前は建築士などプロフェッショナルに見せることが多かった家具メーカーさんも、生活者に向けて、使う人たちの側に立ったショールームをデザインするところが増えてきました。
私が米国から帰国してから、日本で2×4の輸入住宅の普及が進み、私も政府肝入りのプロジェクトのお手伝いをしたこともありました。
そのモデルハウスを最初に見たときに私がだめだと思ったのは、室内がスケルトンになっていて生活がイメージできなかったことです。その家を買うとどんな暮らしができるのか、シーンとして見せる発想が欠けていたのです。それがインテリアコーディネーターの学校を作ろうと思った背景の一つです。
日本の家具の技術は素晴らしいと思いますが、そうしたエンドユーザーに向けた暮らしの提案が業界に今、求められていると思います。業際を越えたコラボレーションによるシナジー効果をぜひ生み出してほしいと思います。
アプリで全てのサービスを
――4月には青山にある町田ひろ子アカデミーと青山スタイルが移転して、開発・営業と一体となるわけですが、今後の展開についてお話ください。
劉 いろいろなスタートアップ企業があって、中には上場しているところもあります。例え上場したとしても、世界に出ていけないという大きな課題があると私は思っています。Googleの上場は「やっぱりね」と誰もが認めるようなことでした。例えばトヨタやソニーは、日本を代表する企業として知られています。それに続くような会社にしたいという思いがあります。
衣食住という皆さんの生活に影響があると実感できる基本領域でサービスを作りたいと私は思っています。特に住まいの分野は、さまざまなバリューチェーンがあり、たくさんのプレーヤーがいるため、これを統合するのは難しいことです。このアプリだけで自分が住んでいる空間全てのサービスを提供してくれるという「住まいのウーバーイーツ」のようなものは、世界を見渡してもどこにもありません。
AI活用できるプロ育成
劉 この業界に関わって思ったのは、消費者にとって暮らしの選択肢が少ないということです。例えば家具の購入に際しても店舗が限られています。いい家具を見つけたとしても、それがぴったり空間に納まるのか、色味が合っているのか分からず悩むことがあります。その場合、一度家に戻って確認して、またお店に戻って買うようなことはほとんどないでしょうね。
そういうところを解消して、好みや予算に応じて自分が好きな空間を作れるようなシステムを作りたいと考えています。私自身は、スマートフォンの中に自宅の3Dモデルが入っているので家具を見たときに、この寸法なら部屋に納まることがすぐに分かります。それを誰でも、いつでも、どこでもチェックできるようにしたいと思っています。空間をスキャニングして計測するアプリは、世界で共通して使えるものなので海外展開も考えています。
その構想の前提として、インテリアコーディネーターの必要性はとても高いと考えています。家のことをトータルでコーディネートする役割を担っているのがインテリアコーディネーターであり、日本の中でもっとその存在感を高めたいと思っています。
今は生成AIの普及が進んでいますが、やはり人間が対応する重要性は非常に高いと思います。人間が提案する価値、人間が作る価値というのは、今後も高くなっていくと思っています。いつも私は町田先生と話しているのですが、今の教育だけでは足りない。インテリアコーディネーターの価値をさらに高めていくためには、能力や経験を身につけていかなければいけません。ここをきちんとすみ分けして、もっとハイレベルの提案をできる能力が必要だと思っています。そうなれば、おそらく今皆さんが住んでいる空間に対して、なあなあにしている部分が完全に解決できるようになって、自分の生活に合う家具を選ぶことができると思っています。
教育事業に関しては、最先端のIT技術を活用できるインテリアコーディネーターの育成を目指しています。メジャーで測って紙で書いていくだけではなく、AIをはじめ最先端の技術を使って設計やプランニングを行い、高いクオリティーの提案を効率よくできるようにしたいと思っています。3Dの空間を使うと、施主さんにもわかりやすく説明できます。
アプリ開発についても、住まいのプロフェッショナルの皆さんにフィードバックをいただくことによって、ノウハウと経験を反映したものが作れると思います。
人がいるからこそできること
――デジタルだからこそできること、人がいるからこそできることが見えているわけですね。
町田 劉社長にはアカデミーのイベントにも出席していただいています。いまのお話を伺って、もっとブラッシュアップするところ、広げていくべきところが見えて、構想が固まりつつあることがわかり、うれしさを感じました。
私たちももっとレベルアップしないといけません。いい意味で期待を裏切らなくてはいけません。生徒たちからデザイナーとの違いは何かとよく聞かれるのですが、インテリアコーディネーターは初めにクライアントありきだと答えます。
自分のやっていること、知っていることや自分の技術を、どうですか買ってくださいということではなく、まず第一にお客さまがおっしゃったことを自分なりに分析して具現化して提案することが大切です。その次にもう少し予算を足すとできることを提案する。そしてさらに予算をかけるとドリームかもしれないけど、ここまでできると提案する。この3つをやりましょうと提案しています。そうするとお客さまはどれを買うと思いますか。
劉 2番目だと思います。
町田 その通りです。劉社長がおっしゃったのは、まさにここだと思います。もっとやれればここまでできるということを提案して、選んでくださるようなプレゼンテーションのためには、空間としてデザインして見せることが必要です。
これまで私たちが力を入れてきたパース作成の部分をデジタルで実現する可能性をスキャナットは持っています。それを教育事業のカリキュラムや青山スタイルにどう取り込んでいくか、若手スタッフが考えているところです。家具業界も、もっとこのスキャナットのことを知っていただきたいと思います。
私自身はこれまで、広島の高齢者福祉施設「IGLナーシングホーム信愛の郷」や「IGLサムエル広島こどもの園ベル分園」などのインテリアコーディネートを手掛けてきましたが、高齢者施設や働く女性のために子どもを預かる場所をもっと充実させていきたいと思っています。
まちだ・ひろこ 武蔵野美術大学産業デザイン科卒。スイスで5年間家具デザイン研究。1975年米ボストンへ。「ニューイングランド・スクール・オブ・アート・アンド・デザイン」環境デザイン科を卒業。77年帰国。日本で初めて「インテリアコーディネーター」のキャリア提唱。78年町田ひろ子インテリアコーディネーターアカデミー、85年学校法人町田学園設立。アカデミー校長として教育活動に務める。
りゅう・えいしゅん(Bruce Liu) 中国広東省生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。⼤手外資系企業ファイナンス関連業務、会社統合に伴う業務改⾰、戦略経営財務関連コンサルティング、データモデリング等業務を経験。2019年にnat株式会社設立。MENSA会員/ACCA Diploma in Financial and Management Accounting。マルチリンガル(広東語、北京語、英語、日本語)。
新たな家具の購買体験に向けて
インテリアのノウハウ生かし次世代住空間アプリの開発へ
IT企業のnatは昨年8月29日付で、インテリアコーディネーター専門スクールを運営している町田ひろ子アカデミーの事業を吸収分割により承継した。同アカデミーが保有している設計ノウハウなどを、natのiOSアプリ「Scanat(スキャナット)」の設計機能に注入し、次世代住空間アプリの開発を進めている。
2019年に創業した同社を成長に導いたのが空間をミリ単位で計測できるスキャナットだ。iPhoneやiPadのアプリとして、高精度な3Dモデルを瞬時に作成できるため、図面がなくても現場の共有や、スピーディーな見積もり作成が可能となる。
スキャナットは、建設・不動産からインテリアまで幅広い業界で使われている。能登半島地震による被災住宅の計測などで威力を発揮、警察、消防の現場調査にも活用されている。社会課題を解決に導く優れたコンテンツやソリューションを表彰する東京コンテンツ/ソリューション・ビジネスアワードなど数々の最高賞を受賞した。
■マンション購入をきっかけに
「誰でも持っているスマートフォンで部屋をスキャニングして、計測したサイズにぴったり納まる家具が見つかれば、家探しがとても楽になる」。劉氏が新築マンションを購入する際、欲しいサイズのカップボードが見つからなかったことが、スキャナット開発のきっかけとなった。
開発のベースとなったのが、自動車の自動運転技術。「周囲の障害物との距離がわからないと自動運転はできない。その計測に使われているLiDAR(ライダー)センサーを使えば空間を高精度に、リアルタイムでスキャンできると思った」。そのセンサーがiPhoneやiPadに搭載されたことによって、描いたアプリの実用化に向けて歯車が回り始めた。
「ただアプリを開発しても、個人がお金を払って買うかというと、それはないだろう」と劉氏は思っていた。リフォーム会社の社長とたまたま話していたら「業界が変わるすごいアプリだ」と言われた。
「その時は何がすごいのか全くわからなかった。実際に現場を見学して、自分の想像よりはるかに計測の頻度が高いことがわかった」。誰でも簡単にスキャンできると同時に、正確な寸法に基づいた空間を再現できるスキャナットはこうして誕生した。
■AIを超えるICの役割がある
「ステップ・ワンは正確に計測できること。ステップ・ツーは、自動で図面を作成したり、シミュレーション機能を搭載したりできること。そしてステップ・スリーは、その空間にぴったりと納まる家具を提案できるようになること」。その先には、新たな家具の購買体験の実現に向けた見取り図とロードマップが描かれている。
「例えば家具のレンタルや造作家具、施工会社やリフォーム会社のマッチングなど、AIではなく、やはり誰かに相談したいといった時にインテリアコーディネーターが必要となる」。町田ひろ子アカデミーのノウハウを生かした壮大な事業戦略がすでに動き出している。
青山スタイルが考えた最適のオフィス環境
nat最高デザイン責任者の町田瑞穂ドロテア氏が統括する空間設計専門チーム「青山スタイル」がコーディネートしたnatの新オフィスが昨年12月15日、渋谷区神宮前にプレオープンした。港区北青山にある町田ひろ子アカデミーが同所に移転して今年4月、インテリアと教育、デジタル・テクノロジーが融合した広さ約200坪(約660平方㍍)の新拠点が誕生する。
新オフィスについて、町田ひろ子氏は「白、黒、グレーが目立つオフィスをカラフルにしたかった」と話す。瑞穂ドロテア氏は「間仕切りを最少限にコミュニケーション要素と防音要素を主として、ムーバブルなものを提案した」という。特注仕様のカラフルなバーテブラなど、イトーキのオフィス家具が採用された。
静かな開発環境と営業のコミュニケーションスペースを両立させるために、オープンな環境でも周囲を気にせずウェブ会議できるボックス型ソファ「サウンドソファ」が採用された。「サウンドソファがもつ社内ミーティングスペースの要素と、サウンドマスキング機能を、ブース内とともに外部への音緩和装置として導入提案した」(瑞穂ドロテア氏)という。
オフィスチェアは、劉社長が自らショールームに赴き座り心地を試した。「アクト2」は、座り心地の良い環境で全員が仕事できるようにと選ばれた。フリップフラップは「スキャナット」のスキャン映像のデザインを思わせるデザイン性も決め手となった。
折り畳みチェア「クロッサチェア」は、軽量であるにもかかわらず、座クッションによる座り心地の良さと、ファブリックによって変わる高いインテリア性が選択のポイントとなった。
ミーティングブースは「アドセル」の新商品を採用。6人座れる広さに加え、リアル・ウェブ会議での利用に十分な遮音性能と調光調色の照明、換気ファン、熱感知式消火装置の自動運転機能を備えている。
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