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★【MIFF2026特集④】日本人審査員が見た着実に進歩するマレーシアのデザイン力

審査員と受賞者とともに。2025年FDCの審査を務めた見月氏(左端)。左から3番目はFDC審査委員長のエリック・レオン氏

 マレーシア家具のデザイン力は近年、着実に上がってきています。これは国内の諸機関・団体がデザイナーの育成に熱心に取り組んできた結果といえます。例えば、MIFFの賞制度では以前から「メンター賞」が設けられています。学生などが応募してくる作品に対し助言や指導をするメンターが加わり、そのメンターを評価し表彰するものです。こうした賞からも、デザイン力を向上させようとする真剣な思いが伝わってきます。
 10年前は未だデザインに未熟な面も見られました。しかし、近年はデジタル環境が整ったこともあり、デザイナーが世界の最新情報に触れて作品制作の参考にしたり、それを打ち出すプレゼンテーションにつなげたりする能力が高まっています。今後もさらに伸びていくことは間違いありません。
 さらに注目したいのは、マレーシアをはじめとする東南アジアの若者たちの地域に対する思い入れの強さです。おのおのが歴史や伝統文化を踏まえ、「この色はマレーシアらしい」「現代の生活に取り入れたい」など、地域色を前面に押し出す姿勢が見られます。まだまだ粗削りではあるものの、洗練されれば世界的にも独創性に富み競争力のある「ミックススタイル」が生み出される可能性があります。
 日本はデザインを洗練させる過程で地域色、いわゆる「日本らしさ」を薄めてきた側面があります。これが世界水準の製品づくりを支えた半面、世界市場では日本の家具を選ばせるのを躊躇(ちゅうちょ)させる理由の一つになっているのではないかとも感じます。
 世界の家具デザインの潮流を見てみると、影響力が大きいイタリア・ミラノの展示会を中心にテーマを多様化する動きが出ています。ひと昔前は数種類のキーワードの下に同じような家具が並んでいましたが、現在は出展ブランドがパターンに変化を付け、さまざまなアイデアの製品が混在・共存するようになっています。
 こうした時代の変化と合わせマレーシア家具のデザインがどのように進化していくか期待しています。また、日本の今後のデザインの方向性を探る目安の一つとしても、マレーシアの動向を観察したいと思います
三井デザインテック フェロー/エグゼクティブ・クリエイティブ・ディレクター
見月 伸一氏

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