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★欧州新木材規則「EUDR」 アメリカ広葉樹はGPSによる厳密な位置情報の提供にも対応―アメリカ広葉樹の合法性・持続可能性および Sustainable Hardwood Coalitionについて(下)

AHECの環境アドバイザーを務めるルパート・オリバー氏

 アメリカ広葉樹輸出協会(大阪市北区、略称AHEC)は9月5日、アメリカ広葉樹の合法性・持続可能性と、欧州でこのほど導入が決まった「EU森林破壊防止規則(EUデフォレステーション・レギュレーション、略称EUDR)」に対応した持続可能な広葉樹認証プログラム「サステナブル・ハードウッド・コアリジョン(略称SHC)」について紹介する記者発表会を都内のホテルで行った。フォレスト・インダストリーズ・インテリジェンス理事長でアメリカ広葉樹輸出協会の環境アドバイザーを務めるルパート・オリバー氏は「持続可能な広葉樹認証プログラム、小規模事業者のための広葉樹認証の新しいアプローチ」というテーマでSHCについて詳しく説明した。SHCについてはすでに全米120社が署名している。

 AHEC日本代表の辻隆洋氏はオリバー氏について、欧州での木材雑誌の編集長として、国際的な木材貿易をはじめ木材業界で25年以上にわたる豊富な経験を持っており、EU(欧州連合)の木材業界関係者、政府機関、NGOなどと強い結びつきを持っていると紹介した。
 オリバー氏は、SHCの役割について「広葉樹を使った製品は優れたサステナビリティーの特徴を持っており、最も環境に対応したものであるにも関わらず、そういったメッセージが伝わっていない。それをどうやって伝えていくか」として、アメリカ広葉樹は、伐採量よりも生育量が上回っており、過去60年間の間で倍増した天然資源として、これからも成長するリソースであることを伝える重要性を強調した。アメリカ広葉樹は、米国が排出する炭素の12~15%をオフセットしており、約180万人の雇用を生み出す効果があることも説明した。
 さらに「アメリカ広葉樹材は、世界のどのマーケットに届けられた時点でもカーボンネガティブ」であり▽エネルギー原単位が低く材の自然なままの状態で幅広く使うことができる▽強度が強く耐久性に優れている▽リサイクルできる―といったメリットを挙げた。
 一方で広葉樹生育地域の森林認証については、森林面積の22%にとどまっており、認証広葉樹はウィスコンシン、ペンシルベニア、ウェストバージニア州に集中している。これは広葉樹材の約9割が、小規模森林オーナーによることに起因しているという。このためSHCは、FSC(森林管理協議会)認証を広げ「幅広い世界中の法的な、または、規制要件に対してグローバルに単一システムで対応していく」ことを目標としている。
 また、求められるのは森林認証自体ではなく、木材が育った山林が適切に管理されているのか、現地の法令を遵守しているかどうかまでを確認する「デューデリジェンス(DD)」であり「質の高いリスク評価と森林ガバナンス(統制)」であることを要件として挙げた。

家具輸出の場合も要件に

 オリバー氏はEUDRのポイントについて説明した。
 森林破壊防止のためのDD義務化を盛り込んだEUDRは、今年の6月29日に発効、大企業には2024年12月30日から、中小企業については25年6月30日から適用が開始される。
 気候変動対策と生物多様性保護のため、EU域内で販売、もしくは域内へ輸出する対象品が森林破壊によって開発された農地で生産されていないこと(森林破壊フリー)を確認するDDの実施を企業に義務付けるもの。家畜やココア、コーヒー、パームオイル、ゴム、大豆などの生産にも適用される。
 オリバー氏は、デフォレステーション(森林劣化)について「FAO(国際連合食糧農業機関)の定義に基づいており、具体的には森林を農業用途に転換することをデフォレステーションと定義している一方で、道路などのインフラづくりや鉱山開発は含まれていない」ことを特異点として挙げた。さらに「森林から構造的に変化が起こされた場合にそれを劣化とみなすとしており、原生林または自然に再生した森林をプランテーションに変えることも劣化という言葉の定義の中に含まれている」と説明した。
 輸入業者や輸出業者、製造業者は、積み荷ごとにデューデリジェンス・ステートメントを提出する。伐採が行われた土地の位置情報と日にち、木材生産の日時ついても提供することが要件となっている。位置情報については、GPSの座標軸(ジオロケーション)によって示されるものであるという厳しい条件となっている。欧州委員会は、国ごとにリスクアセスメントを行い、森林減少のリスクについてのリストを公表する。
 コンテナの積み荷には異樹種や等級、サイズ、色が異なる木材が混載されている。EUに提出するリストにはさまざまな原産地の位置情報を載せることになるため「ジオロケーションの提出については米国の小規模事業者にとって大きな障壁となる」ことを指摘した。位置情報の要件については、米国側に事前に知らされておらず、輸出事業者らに衝撃が走った。
 木材を使った家具を輸出する場合もEUDRが適用され、使っている材の位置情報の提出が求められる。
 これに対してSHCは「全米におけるリモートセンシングデータを提供することができるシステムを作り上げていこうとしており、積み荷の混載にも対応できるように開発を進めている」という。
 また、米国の33州において、違法伐採のリスクの評価を再度進めており、デフォレステーションについては、衛星データやAIを駆使して「EUDRに準拠しているか、ということを示すことができる全米レベルのデータベースの構築も取り組んでいる」という。また流通工程においても、「チェーン・オブ・カスタディ」という基準づくりを進めている。

AHEC日本代表の辻隆洋氏

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