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年頭所感 林野庁長官 本郷浩二氏 林業DX実現に一層力を 付加価値高い木材製品の輸出を拡大

林野庁長官 本郷浩二氏

 新春を迎え、謹んで新年のごあいさつを申し上げます。
 昨年は、令和2年7月豪雨をはじめとする自然災害により、全国各地で甚大な被害が生じました。亡くなられた方々のご冥福をお祈りするとともに、被災された全ての方々にお見舞い申し上げます。また、現場で復旧・復興にご尽力されている関係者の皆さま方に心から御礼を申し上げるとともに、一日も早い復旧・復興に向けた支援などに林野庁といたしましても全力で取り組んでまいります。
 近年は、毎年のように大規模な山地災害や風水害などが頻発するようになっており、森林の有する山地災害防止機能や水源涵養(かんよう)機能により国民の皆さまの生命と生活を守ることの重要性が一層増しております。林野庁といたしましても、被災地での災害調査に職員を派遣するなど技術支援を行うとともに、防災・減災、国土強靭(きょうじん)化のため森林整備や治山対策などの加速化に引き続き取り組み、災害に強い森林づくりを図ってまいります。
 加えて、昨年は新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴い、経済活動全体の停滞の影響から国内外での木材需要が低下するなど、森林・林業・木材産業においても甚大な影響が生じました。これらの影響に対しては、昨年に引き続き木材需給の動向を注視しながら、原木生産を伴わない森林整備、木材の消費拡大、林業者の経営継続などの支援に取り組んでまいります。
 こうした状況にありながら、積極的に前進していく話題も多数ございます。
 先般成立いたしました森林組合法の一部を改正する法律については、本年4月から施行されるところであります。組合間の多様な連携手法の導入、事業の執行体制の強化により、地域の林業経営の担い手である森林組合系統組織の経営の発展を実現し、山元への一層の利益還元が図られるよう必要な支援を行ってまいります。
 そして、先ほども述べましたとおり新型コロナウイルス感染拡大に伴い国内外における木材需要が停滞したものの、国内ではウッド・チェンジ・ネットワークの参加企業が店舗の木造化を実行するなど民間建築物などにおける木材利用が着実に進展しつつあるほか、輸出については1月から10月までの累計で前年の木材輸出額の水準を回復するなど、堅調に推移しているところです。昨年末には農林水産物・食品の輸出拡大実行戦略がとりまとめられたところであり、引き続き製材・合板などの付加価値の高い木材製品の輸出拡大に取り組み、輸出目標の実現を目指してまいります。また、都市部を中心にテレワークなどの「新しい生活様式」が広まる中、ワーケーションや地方移住への関心の高まりが見られるとともに、「3密」でない森林空間での楽しみ方として「ソロキャンプ」をはじめさまざまな利用方法も注目を集めました。林野庁としては、健康、観光、教育などの多様な分野で森林空間を活用し、新たな雇用と収入機会を生み出す「森林サービス産業」の創出・推進に取り組んでいるところであり、人生100年時代のあらゆるステージにおいて、森林との触れ合いや森の恵みを享受しながら、健康で楽しく心豊かに暮らすことを目指すライフスタイル「フォレスト・スタイル」の推進に引き続き取り組んでまいりたいと思います。
 こうした明るい兆しを踏まえ、また、人工林の多くが本格的な利用期を迎えている現在、この豊富な森林資源を「伐(き)って、使って、植える」という形で持続的に循環利用することを通じ、林業の成長産業化と森林の適切な管理を両立していくことが重要と考えています。
 このため林野庁では、高性能林業機械の導入、林業従事者などの確保・育成のほか、スマート林業の推進、自動化機械の開発、木質系新素材の開発などの「林業イノベーション」の取り組みや、木材加工流通施設の整備、都市建築の木造化、CLTなどの木質建築資材の利用拡大、木材製品の輸出拡大など、川上から川下までの取り組みを総合的に支援いたします。さらに、間伐や主伐後の再造林などの森林整備とその基盤となる強靱な幹線林道などの路網整備や、近年の地球温暖化に伴い激甚化・同時多発化のリスクが増大する山地災害等に対する治山対策を一層強化いたします。また、森林環境譲与税が導入から2年目を迎えており、全国各地で地域の実情に応じた様々な活用が進んできているところですが、優良事例の横展開を図るなど、一層しっかりと取り組んでいくとともに、地域の林業経営体の育成を図るため昨年4月から施行された国有林の樹木採取権制度についても、新型コロナウイルス影響下の木材需給の動向を踏まえつつ慎重に対応していく考えです。
 最後に、本年のトピックスを4点、ご紹介いたします。
 まず、森林・林業基本計画の変更です。森林・林業基本計画は、森林・林業基本法に基づきおおむね5年ごとに見直すこととなっており、現行計画に基づく施策の実績や森林・林業・木材産業の現状を踏まえつつ、6月ごろの閣議決定に向け鋭意検討を行っているところです。見直しに当たっての主な論点として、再造林の推進など森林資源の適切な管理、持続的な林業・木材産業の実現、都市などにおける木材利用の促進など木材需要の拡大などを考えており、新時代にふさわしい明るい展望を描ける計画となるよう検討を進めてまいります。
 二つ目に森林の間伐等の実施の促進に関する特別措置法の一部改正です。本改正では、高齢級化が進むわが国の人工林において森林吸収量が長期的に減少傾向にあることから、引き続き間伐などを確実に実施するために同法に基づく支援措置の期限を延長することはもとより、エリートツリー(特定母樹から育てた苗木)を積極的に活用した再造林を促進することで森林の若返りを進めるなど、パリ協定の目標達成や、「カーボンニュートラル」の実現に貢献できるよう所要の措置を講じることを検討してまいります。
 三つ目に林業・木材産業におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)の推進です。
 本年は、デジタル庁の発足を契機として、政府一体となったDXの実現に向けた動きが本格化していく年であります。国内の人口減少が進む中で、林業・木材産業の成長産業化を実現するためには、需要に即して木材を安定的に供給することが不可欠となることから、林業・木材産業の皆さまとともに、川上から川下までを最新のデジタル技術でつなぎ、データ連携により新しい価値を創造する「林業DX」の実現に向けて一層力を入れて取り組んでまいります。 
 最後に、前述でも触れましたとおり、2050年までに温室効果ガス排出を実質ゼロにする「カーボンニュートラル」の実現に向けた取り組みです。この壮大な目標を達成するために森林・林業・木材産業が果たす役割は非常に重要なものであると認識しており、林野庁が担う責務も重いものであると考えております。再造林などの森林の若返りに資する森林整備や民間建築物などにおける木材利用の拡大などを着実に推進しこの目標の実現に貢献するとともに、わが国に暮らす全ての皆さまが森林の恵みを末永く享受できるよう、全身全霊をもって日々まい進していく所存です。林業・木材産業に携わっておられる皆さま、そして国民の皆さまのご協力もお願いいたします。
 結びに、現在直面している未曽有の課題を打破し、本年が皆さま一人一人にとって、実り多き素晴らしい一年になりますよう、心よりお祈り申し上げます。

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