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★ウッドデザイン賞2020 優秀賞「有明体操競技場」など最終決定

最優秀賞(農林水産大臣賞)を受賞した「有明体操競技場」

 木で暮らしと社会を豊かにするモノ・コトを表彰する「ウッドデザイン賞2020」の受賞作品が12月11日、同賞運営事務局から発表された。432点の応募作品の中から選ばれた上位賞29点が最終選出された。最優秀賞(農林水産大臣賞)には「有明体操競技場」、優秀賞(林野庁長官賞)には「木硯」、「八ヶ岳カラマツチェンバロ・プロジェクト」、「FLATS WOODS木場」など、建築・空間・建材・部材、木製品、コミュニケーション、技術・研究の分野から、優れた作品が幅広く選出された。
 受賞作品と選評は次の通り。
 【最優秀賞(農林水産大臣賞)】
 ◇有明体操競技場(日建設計、清水建設、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会)=ソーシャルデザイン部門、建築・空間分野。国際規模のスポーツ競技大会施設。日本の伝統的な木造建築の美しさを醸しつつ、多くの観客を迎え入れる競技場としての機能性を併せ持つ、世界に発信すべき建築であり、最優秀賞にふさわしい作品として高く評価した。競技エリア天井の木架構の現しなど、「質素で潔い建築」が見る者を圧倒する。日本各地から木材を調達し、カラマツの大屋根、スギの外装や観客席などで木材を約2300立法㍍使用している。日本の「木を使い、木と親しむ文化」の海外への発信を担うにふさわしい作品と考える。
 【優秀賞(林野庁長官賞)】ライフスタイルデザイン部門
 ◇CLT PARK HARUMI(三菱地所、三菱地所設計、隈研吾建築都市設計事務所)建築・空間分野。CLT(直交集成板)のショーケースとして、子供や来場者が木に触れその魅力を感じることができる空間。多様な工法による多様な空間、端材を使ったテーブルやスツールなど、随所に木を感じられる仕掛けを施している。地域材を活用し、都心で使用した後、解体移築し、また里帰りさせるという木造建築ならではの都市と地方を結ぶ循環型経済モデルとしても独創的な取り組み。
 ◇Continuum(九銘協)建材・部材分野。斜めに継ぎ合わせた連続性のある木の意匠が、独特の緊張感を生み出し、店舗の顔となるカウンターで使えばインパクトがあるだろう。インテリアの木質化デザインでは新規性が光るアイデアが少ないなか、店舗設計の視点から見ても刺激をもらえるような斬新さが本作品にはある。吉野桧のアピールの面でも付加価値をもたらしている。
 ◇木硯(YOAKE、TAWARA)木製品分野。手書き文化の復権と素材としての木の活用を融合させ、日本の文化を再認識させるという意欲的な作品で、硯の質感がとてもよい。材料であるエンジュの一木を半割にしているため、蓋を閉めるとひとつの木の塊に見え、オブジェのような存在にもなる。伝統的な文具の世界での木材利用という点で、その独創性を評価した。
 【同賞】ハートフルデザイン部門
 ◇奈良県コンベンションセンター(奈良県、PFI奈良賑わいと交流拠点、大林組大阪本店一級建築士事務所、梓設計、大林組)建築・空間分野。吉野杉集成材と鉄骨のハイブリッド架構の大屋根広場のスケールの大きさと意匠が印象的な施設で、地域材の多様な活用方法を見せてくれる魅力的な空間である。構造材、内外装材のみならず、スギ皮和紙や鉋くずを貼ったガラススクリーンなど、アート性に富んだ多彩な表情が面白い。地域の交流拠点として、万葉集に代表される天平文化の高貴さの表現と木の質感や表情がうまく融合している。
 ◇八ヶ岳カラマツチェンバロ・プロジェクト(八ヶ岳高原ロッジ、久保田チェンバロ工房、双葉林業、そごう・西武)コミュニケーション分野。1960年代前半、この地に33万本のカラマツを植えることから始まり、50年余の時を経て日本最大級の高原リゾートとなった八ヶ岳で、自然、森林、芸術が織りなす新たな取り組みとして評価した。国内屈指の木造コンサートホールで奏でられるチェンバロは、木目を大切にした美しいデザインが特徴的である。場所・空間・道具が一体となった感性に訴える魅力的なプロジェクトである。
 ◇寝室に木材系内装や家具が多いと働く人の不眠症の疑いが少ないことを実証:筑波大学睡眠疫学プロジェクト(森林研究・整備機構森林総合研究所、筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構/筑波大学医学医療系産業精神医学・宇宙医学グループ、帝京大学)技術・研究分野。木材利用と健康の関連性を科学的に実証した社会有用性の高い研究である。そのために、睡眠のメカニズム、睡眠と心身の関係、木材の健康効果の3
つが揃うことが必要であり、本作品はそれに取り組んだ貴重なものである。エビデンスが整うことで、寝室の家具や内装材に木材を使うことの必然性がさらに加速されることを期待したい。
 【同賞】ソーシャルデザイン部門
 ◇FLATS WOODS木場(竹中工務店、齋藤木材工業、サイプレス・スナダヤ、三井物産フォレスト、山佐木材、山長商店)建築・空間分野。新たに開発された木造部材の採用により、簡易かつ汎用性ある接合や施工方法を確立した社会提案性の高い、チャレンジングな取り組みである。12階の共用部には各技術や部材をモチーフとした家具が配され、利用者が直接、木の温もりや香りを感じることができる。都市の景観に柔らかさを与えつつ、森林資源と経済の循環を目指す先導的モデルである点を高く評価した。
 ◇西脇市立西脇小学校保存・改修に伴う基本計画および工事(兵庫県西脇市、西脇小学校保存改修に伴う基本計画・設計組織、内藤設計、吉住工務店)建築・空間分野。既存木造校舎の改修にあたり、耐震、耐火やバリアフリー化、温熱環境への配慮などの対策を実施し、木造建築の価値を再認識させる契機を生んだ。ワークショップやアンケート調査、市民へのプレゼンテーションを通じ、改修の理解醸成を図った点は重要だ。コストも建て替えよりも安価で済んでおり、地域の記憶を留める木造校舎が次の世代にも引き継がれ、新たな木材利用の扉を拓くことを期待する。
 ◇1964東京オリンピックゆかりの木プロジェクト(日本オリンピック委員会、北海道、遠軽町、北海道家庭学校、乃村工藝社・電通・電通ライブコンソーシアム)コミュニケーション分野。ミュージアムの天井にはゆかりの木の木製ルーバーが設置され温かく美しい空間が来場者をもてなす。これは日本に一台しかない節あり突板を製作できる北海道内の事業者と連携による。ウェルカムウォールの五輪オブジェはミュージアムのある地元小学生のワークショップから生まれた。年月を可視化してくれる森と木が、オリンピック・レガシーを次の世代にまた引き継いでくれるだろう。

優秀賞(林野庁長官賞)「八ヶ岳カラマツチェンバロ・プロジェクト」
優秀賞(林野庁長官賞)「木硯」

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