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デザイナー川上元美氏に聞く 3Dソフトで家具は変わるか

「オフィスチェアのような機能性の高い製品のデザインの検証に3Dソフトは欠かせなくなっている」と語る川上氏

 家具のデザイン、設計において3Dソフトの進化が始まっている。デザインコンペでも、実物と見間違えるような精度の高い3Dソフト使用作品の応募が増えている。3Dソフトが今後、家具デザインをどう変えていくのか、デザイナーの川上元美氏に聞いた。

より繊細、より複雑に「時間と検証」にも効果

 ――いつごろからデザインに3Dソフトを使っていますか。
 10年ほど前からです。素材に木材を使う場合、原寸の3図面を細かく書いて、木材の試作品を作ってもらうことが多いのですが、メーカーによっては最初から3Dでやりとりをするケースもあります。3Dソフトを使わずに木製家具を職人がおおらかに作っているところはそれで残っていきますが、3D設計ソフトを活用し、5軸のNC工作機を導入している工場では、1本の木を無駄なく削って一気に加工しますので工場の風景もだんだん変わってきています。また、使いこなすにはオペレーターの高い技術も必要になっていますね。
 ――3Dソフトによってイメージに近いところまで現場に伝えることができるようになって、どのように作業が変わりましたか。
 時代の要求もあると思います。昔はスケッチだけで済んでいたのですが、「メーカーの社内でコンセンサスをとるために実物に近い絵がほしい」とか「設計を効率よく進めていくために、きちんとしたCAD/CAMのデータがほしい」というところもありますね。
 ―デザインのどのようなところに3Dソフトを活用していますか。
 私の場合はツールとして使い、3Dソフトをクリエーションに使うことはあまりありません。例えば、回転椅子のように内部機構やパーツの取り合わせの設計や検証する場合などに使っています。オフィスチェアのような機能性の高い製品をデザインする場合は欠かせなくなっています。中身の機能を考えて、それから外観に修正を加えながらどう機能を収めていくかなど、3D設計ソフトを使って細かいところまで検証しながら進めています。手描き図面のころは、徹夜で修正していた作業が、3D設計ソフトを使って短時間でできるようになりました。3Dプリンターで実際に出力してパーツなどを検証することもあります。
―いまの3D設計ソフトで使いにくいところはありますか。
 フィレット(丸み)が集まる複雑なコーナー部などは、ツールの設定ではイメージ通りにならないことがあります。椅子の実寸で0・2㍉から0・3㍉ほどの違いですが、その際の調整に手間がかかることが多いので、もう少し速くできないものかと思います。3Dと実物とのスケール感の違いはどうしても出てきますが、それは慣れでしょうね。
 ―コンペの審査でも3Dを使った作品が多くなっていますね。
 3Dソフトの精度が上がって、写真と見まがうようなものもあります。木の性質を知らなくても形ができてしまうものだから、3Dを使って明らかに削り過ぎているようなデザインを見て、どうかなと思うこともあります。バーチャルの世界でやっているとそうなるわけで、硬さとか軟らかさとか素材によって違う質感を押さえることは基本としてあるわけですから、そこは教育の中で若い人たちにしっかりと教えてもらいたい。学生たちもしっかりと勉強してほしいと思います。
 ―3Dソフトによって今後、デザインは変わるのでしょうか。
 変わってきていると思います。より細くなったり、曲線や断面が複雑になったり、建築の世界をみても分かるように、これまでできなかったものができるようになっています。いろいろな要素が絡みあって、デザインは進化しています。日本では今、価格を抑えた家具が主流になっていますが、高価格帯の市場が動いてくれば、家具も新しいデザインが生まれてくる可能性があると思います。


 かわかみ・もとみ 1940年兵庫生まれ。64年東京芸術大学美術学部工芸科卒、66年美術研究科修士課程修了、69年までアンジェロ・マンジャロッティ建築設計事務所(イタリア・ミラノ)勤務。71年川上デザインルーム設立。アメリカ建築家協会(AIA)主催インターナショナル・チェアデザインコンペティション一席、グッドデザイン賞金賞など受賞多数。

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