ニュース2024.12.05
飛騨の家具フェスティバル・トークショー
飛騨の匠と関鍛冶の技を継ぐ~高山陣屋のくれへぎ技術の継承~
【登壇者】
川上 舟晴氏
(合同会社こうこう舎 代表/宮大工/日本伝統建築技術保存会認定技術者)
佐野 元治氏
(打刃物元治/野鍛冶)
岡田 明子氏
(飛驒産業株式会社 代表取締役社長/飛騨木工連合会 企画委員長)
ファシリテーター
久津輪 雅氏(一般社団法人技の環 代表理事)
道具を作る職人が少なくなっている
今回の「飛騨の家具フェスティバル」は、飛騨伝統のくれへぎ技術を使ってテーマブースが構築された。
くれ材は高山市の観光名所となっている高山陣屋の屋根に使われている。築400年と言われる最も古い米蔵にも使われており、50万枚の板を石で押さえて固定している昔ながらの姿を見ることができる。
今回フェスティバルでくれ材を使うことになったのは、一般社団法人「技の環(ぎのわ)」代表理事の久津輪雅(くつわ・まさし)氏が飛騨木工連合会に「くれへぎを1つの象徴として、その匠の技術を伝えていくことをテーマにしたトークイベントやワークショップをやらせていただきたい」と提案したことがきっかけだった。
岐阜県立森林文化アカデミーの教授を務める久津輪氏は、伝統技術に使われる道具を作る職人が減っているという飛騨の職人からの話をきっかけに2019年度から5年間にわたり全国の聞き取り調査を行った結果、「もう本当に道具を作る職人さんが少なくなっていて、このままにしておくと10年後にはノミとかカンナも手に入らなくなってしまうんじゃないか」という危機感から、4人のメンバーで24年に「技の環」を立ち上げた。技の環という言葉には、伝統技術の現場を支え、人と人とをつなぎ、環をつくるハブ役になるという意味が込められている。
くれへぎの道具をよみがえらせる
こうこう舎代表で宮大工の川上舟晴氏は、高山市に工房を構え、くれへぎ技術を継承する第一人者。高山陣屋に使われているくれへぎの技術を地元の手で守ろうと、最後の屋根葺き師と言われる職人から技術を受け継ぎ、仲間の大工や材木屋らとチームを組み、体に馴染むまで技を習得するための練習を繰り返した。
「現場を知って、その板の大事なところ、要点がわかってくる」と川上氏。板を作るだけでなく、その形がなぜ必要か、どうやって建物を雨風から守っているか知るために、屋根葺(ふ)きの仕事まで携わるようになった。板で葺いた屋根は京都にもあるが、飛騨はサイズが違い、葺き方が雪国に合ったものになっているという。
使われる道具は、5種類からなり、特に万力(まんりき)は飛騨独特のもので、作る鍛冶屋もなかった。参考文献もなく飛騨木工連合会が出している報告書をもとに、古道具屋を回って調査しながら道具を復元した。
今回のフェスティバルでは、岐阜県関市の刃物づくりの技術を受け継いだ職人の手で、くれへぎに使う5種類の道具を作った。久津輪氏は「(関市は)日本刀と工業製品の町になっているが、もう一度その関で、くれへぎの道具を作る技術をよみがえらせて、それを飛騨の匠が使うという関係性ができたら素晴らしいんじゃないか、そういう思いもあった」という。
わずか1㍉の調整 関の刃物の技術を飛騨に
その道具を作ったのは、岐阜県御嵩町に鍛冶工房を持つ佐野元治氏。関市で最後の道具を作る鍛冶屋さんと言われる職人から技術を学んで受け継ぎ、包丁などの刃物を作っている。「岐阜県が誇る技術は、実は首の皮1枚で繋がっていたところもあるんだと改めて思う」と久津輪氏は話す。佐野氏は、刃物メーカー「貝印」による鍛冶技術継承プロジェクトの顧問も務める。
「最初からすぐに完成品ができるわけではないと思ったので、まずは川上さんが使っているところを高山まで来てじっくり見ていただいた上で、実際に5種類の道具を作ってもらった」(久津輪氏)という。
佐野氏が普段作る刃物に使う鉄は300~400グラム。くれへぎの刃物は2キロあるため、小さいパワーの設備で大きなものを作るのに苦労したという。貝印や関市の刃物メーカーも製作に協力した。試作したものを実際に川上氏が性能評価しながら作業を進めた。
「どの刃物もものすごく精度が良かった。刃物は研(と)いで使うので、研ぎやすさだとか、あと使いやすさだとか、それによってかなり作業効率が変わってしまう。佐野さんによって、本当に使いやすい、精度のいいものが仕上がってきた」と川上氏は評価する。
二人の協働で道具を作る中で、川上氏が違和感を感じたのは、板を割る時の道具の刃先の確認のしやすさだった。
「刃物の真ん中が少し膨らんでいて、刃と木が接しているところが、わずかに見にくいっていうことを川上さんがおっしゃって、実際にゲージで測ってみると、1ミリ弱ぐらいの話だった。でも、そこにやはり違和感を感じるというのが、その職人さんが使う道具が、いかに精度よく作られていて、本当に微妙なところの出来がその仕事の速さ、正確さを左右するということが改めてわかった」と久津輪氏は説明した。
原点は手の仕事にある
佐野氏は「刃物でグレードのエッジがあるものを、ほじるように使っていたのが衝撃で、確か僕、ウヒーって言ったと思う」とくれへぎを最初に見た時の印象を話す。「鎬(しのぎ)がたったように最初に作ったのは、バールのようにほじった時に、エッジがそのほじる相手に当たらないよう、当たってほしくない、使い手さんの気持ちを置いといても、作り手側の思いで、わが子可愛さのあまり鎬を立ててしまった」と振り返る。川上氏の要望を聞いてさてどうするか。「削って作ってしまえば、それはそれできっとご要望の鎬を落としたものもできるなと思いつつ、でこぼこをせめてならすのと、あと鎬を多少残す。そんな感じで、 これは当てビシと言うのですが、 普段は使わなかった。自分の小槌で叩いて仕上げてしまうことがほとんどだったが、小割り鉈(なた)のでこぼこを少しでも減らすためにこれを自分で作り、本製作の方は試作より多少良くなった」と職人ならではの微妙な調整と工夫の過程を話した。
飛驒産業社長の岡田明子氏は一連の道具作りの過程を聞いて「技術の継承を首の皮1枚のところを繋ぎとめてくださっていることにすごく希望を感じた。その道具の作り手と、くれの作り手の間で交わされる対話や目には見えない関係性は、残していかなければいけないものだと思った」と感想を話した。
同社が14年に木工家具職人を育成するために設立した一般社団法人飛騨職人学舎では、手道具を自分で作ることを学ぶカリキュラムも組んでいる。「地元に育まれた企業として、伝統の技術を継いでいくということは一つの使命だと思っている。その原点は手の仕事にあるはずで、そういったところをしっかりと継いで、未来に技術をつないでいくという思いがある」という。このほど高山市で立ち上げた遊朴館も「手道具を継承する場所にしたいという思いが原点にある」と話した。
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