ニュース

★【秋山木工の挑戦①】日本のものづくりを再び世界一に ものつくり大学名誉学長・赤松明氏が職人養成プログラム

「みんなを元気に」と秋山社長(中央)。12月に催された秋山木工の展示即売会で来場者とともに
ものつくり大学名誉学長の赤松明氏

 2023年4月、秋山木工(横浜市都筑区)の新たな挑戦が始まる。特別顧問に迎えた「ものつくり大学」名誉学長の赤松明氏が考えたカリキュラムに従った新しい職人養成プログラムが開始される。同社社長の秋山利輝氏は40年以上にわたって職人の心得と人間性を養う教育に力を注いできた。赤松氏のこれまでの教育と研究に裏付けられた、科学的な知識と技術・技能の三位一体としたものづくり教育が加わることによって、家具業界の新たな職人養成の道が拓(ひら)かれつつある。

 秋山木工は、埼玉県行田市にある「ものつくり大学」の学生のインターンシップを受け入れており、そのつながりの中で赤松氏は秋山氏と知り合った。
 「家具メーカーは、ほかの業界の大手企業のようにきちんとカリキュラムを組んで訓練しているところは少ない。その中で秋山木工は企業内訓練をやっていることが特徴だと思っていた。ものづくりを教えると同時に人づくりに取り組んでいる。人間性を育てることには大賛成」と評価していた。
 しかし、丸刈りにしたり、携帯電話や恋愛を禁止したりする旧態依然とした丁稚(でっち)修行に対しては「今はそんな時代ではないという意見を常に秋山社長に申し上げてきた。一方、それが40年以上続いてきたことには、何か意味があるのではないか、といろいろと考えた結果、時流と離れているが、心意気は否定するものではなく、その重みを理解して教育に取り組もうと思った」と話す。
 職業能力開発総合大学校に務めていた赤松氏は2006年、ものつくり大学の教授に就任した。「1990年代にものづくり立国と言いながら、国内のものづくりに陰りが見られ、昔ながらの生業(なりわい)は社会的な評価が低く、木工産業もご多分に漏れず社会に置き去りにされてしまうという思いがあった」。さらに、韓国の家具工場見学がその思いに拍車をかけた。「同レベルのものづくりをやっているのを目の当たりにして、このままではいつか追い抜かれる」という危機感を抱いた。
 こうした現状をなんとかしたいという思いから、ものつくり大学に入った。ここまで日本が後れを取った理由として「原因は教育にある。情報分野に人気が集まる一方で、木工などのものづくりに関わる先生があまりにも少ない」ことを挙げた。
 秋山木工での教育について「昔ながらの丁稚制度だけがマスメディアで強調されがちだったが、きちんと人づくりをやっていることを前面に出してもっと知ってもらうとともに、木工やものを作る楽しさが分かり、評価されるような教育システムを作ればいいと思っている」と方向性を定めている。
 「科学的な知識だけでは、ものは作れない。また技能だけでは発展性が少ない。常に科学・技術・技能の三位一体でやらなければ、ものづくりの本質から外れてしまうと思っている。手加工や機械加工の方法はもちろんだが、図面の読み方や描き方、木材の性質や特徴、機械の構造など基礎的な理論についても座学で学んで理解してほしい。なぜこうしないといけないか、合理的な方法を学び、それを正しく次の世代に伝えていくことが大切だと思う」
 カリキュラムを見せてもらうと、木材の性質や製図などを学ぶ座学から木工具の整備と使い方、木材加工、木製品製作などで技能検定3級・2級を目指す半年間のタイムテーブルが組まれていた。「週の内1日は、木工の講習だけではなく、先人の秀逸な作品の見学や、秋山社長や一芸に秀でた人々の講演を聞くなどの時間を設けようと思っている」。
 赤松氏は「これまでできなかった教育を実践したいと思っている」と話す。木工を学んで職人になった後、社会に出ていく秋山木工のシステムは従来と変わらない。科学的な知識と技術・技能を学び、実際にものを作りながら学んだ人材をこれから輩出していくだろう。その意味でこれは、職人のレベル向上とともに、業界全体の発展につながる試みと言える。
 「先輩の姿を見ながら学ぶことも必要だが、それだけではAI(人工知能)による技術の進化についていけなくなってしまう。AIやITも理解できて、それを武器にしてものづくりができるようにならないといけない」と多品種少量生産時代の日本のものづくりの発展を見据えながら話す。
 これまで丁稚制度に習って職人の心得をはじめ人間性の教育に力を入れてきた秋山木工を舞台に、現代の職人教育が始まろうとしている。

いかに喜ばせるか―育成の柱は「親孝行」
 秋山木工社長の秋山利輝氏は「日本のものづくりを再び世界一に」を目標に掲げる。「常に日本を1ミリでも良くしたいという思いを忘れたことがない。大きなことを言うと思われるかもしれないが、みんながそれに向かっていけばいいと思う」。そのために一流の職人を育てる人材育成を続けている。
 業界ではよく知られているが、秋山木工は1971年の創業以来、8年間にわたる独自の職人研修を続けている。秋山氏の近著『人生を輝かせる「親孝行」の心得』でも詳しく書かれている。同書から引用しながら改めてその研修制度を紹介する。
 「一流の職人は、技術より人間性が大事」。特に最初の5年間は「丁稚期間」として、技術的な訓練よりも、人としての心構えや生活態度、礼儀、感謝、尊敬、謙虚さ、周りの人への気遣い、心配りといったことに育成の重点を置いている。
 この「人づくり」のために研修期間は全寮制の集団生活を基本とし、男性も女性も最初は丸刈り、携帯電話禁止、恋愛禁止、1日は全員の朝食づくりと早朝ランニングで始まり、スケッチブックに書くレポート提出で全ての仕事が終わる。兄弟子や職人も見てレポートにコメントを入れ、書き終えたスケッチブックは親兄弟、祖父母、恩師などにも読んでもらい、それぞれコメントを入れて送り返してもらう。
 5年間の丁稚期間が終わっても、秋山氏が人間性を認めないうちは、いくら技術があっても職人として認められない。こうした「現代の丁稚制度」を40年以上続けている。
 一見、スパルタ教育のようにも見えるが、幼少時代の貧しさの中で十分に勉強する時間と機会を得られず、中学2年生まで自分の名前を漢字で書くことができなかったという秋山氏が、職人となって一流企業や宮内庁などの仕事を受注するようになった経験に基づく温かな視線が随所に感じられる。あくまでも目的は、人間性にあふれた一流の職人を育てることにあり、その方法を学ぼうと企業経営者や幹部たちが頻繁に見学に訪れている。
 それは、職人としての才能に恵まれた者だけではなく、いまの人材育成のシステムの中ではカバーできなかった、職人の人材発掘と家具業界全体の人材の底上げにつながっている。秋山氏は常に「とにかくみんなを明るく元気にしたい」と話している。
 その人間性の育成の柱となるのが著書に書かれている「親孝行」だ。秋山氏は「絶えず親をびっくりさせろ」と丁稚に言い続けている。親孝行の教えから始まる同書を読み進むと、次の言葉でそれが「ものづくり」に深く関わっていることが分かる。
 『親を喜ばせることができない人が、果たして、お客さまを喜ばせることができるでしょうか。親を良い意味で驚かせることができない人が、お客さまを驚かせることができるでしょうか』。そして『親の想像を超えたことができる人は、お客さまの想像を超えることができます』と続き「親孝行心得二十箇条」に導かれる。
 4月からの「ものつくり大学」名誉学長の赤松氏の講義について「いくぞーっ! て掛け声掛けながらやるのが僕のやり方だけど、先生には組織的にきちんとプログラムを組んでやっていただけると思う」と期待している。「秋山木工だけではなく、全国を考えてやってください。ほかの会社がまねをできるようにしてください、とお願いしている。うちだけではなく、みんなが良くなるようにしたい」と、その内容を公開していくことを考えている。
 これまでの全寮制による研修は希望者に門戸を開きつつ、必ずしも丸刈りや携帯電話・恋愛禁止、住み込みではない形でも研修生を受け付ける。
 「5年間の丁稚修行と、8年間で秋山木工を卒業することはこれまでと変わらない。もう40年以上やってきたから、これからは、次の世代の人たちがもっと自然な形で職人の人間性の育成を続けていくことができるようにしたい」と次を見据えている。

【秋山木工の挑戦②】丁稚たちは何を学んだかに続く

ニュースの最新記事