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★家具で山の価値引き出せる 共同行動宣言をまとめた日本林業協会会長・島田泰助氏に聞く

日本林業協会の島田泰助会長

 森林・林業・木材関係7団体はこのほど、国産材の安定供給体制の構築に向けた「共同行動宣言」を発表した。その中心的な役割を担い、とりまとめを行った日本林業協会会長の島田泰助氏は、山元の立木価格まで踏み込み、「持続可能性が担保された木材を使うメリットを訴え、ウィンウィンの中で価格に反映していく仕組みを考える必要がある」と提起した。家具業界は、どうこの課題に向き合えばよいのか。島田会長に聞いた。
持続可能な森づくりに全力
 ―なぜこのタイミングで森林・林業・木材7団体の足並みをそろえ、共同行動宣言を提起しようと思われたのでしょうか。
 木材関連の仕事に長く携わる中で、木材を使う側の皆さんの協力がないと、日本の森を健全な形で維持していくのは難しいと考えていました。日本の山の木は今、使い時を迎えています。それを課題として皆さんに考えていただこうと共同行動宣言を提起しました。
 ウッドショック、ロシアのウクライナ侵攻をきっかけに輸入材が高騰し、国産材を使っていこうという動きが広がっています。しかし、立木価格は以前とほとんど変わっていません。今の立木価格で再造林をしていけるのか。これまで造林することは山側の責任ということで終わっていました。そうではなくて、もう一歩踏み込んで考えないといけません。
 立木販売価格が非常に低いことから、経営を続けるのは難しいと思っている森林所有者が増えてきています。森林所有者が経営意欲を持てるように支えていくことは、森林の健全化や木材の安定供給につながり、皆さんのためになるのです。できるだけ多くの方々に、今の状況を分かっていただき、山元を応援してもらえる土台づくりができればと思います。
 ―共同行動宣言を拝見して、家具を通じて山側のストーリーを消費者に伝えていくこともできると思いました。
 海外に木材製品を輸出する際もそうですが、持続可能性を担保できていないものはもう売れない時代になっています。日本の森を守るために木を使うという考え方は、広く受け入れられるようになってきました。その時に、使う側の皆さんには、ただ安ければいいというのではなく、自分たちのよって立つところをしっかりと見つめ、日本の森の活力を維持できるような形で使っていただく仕組みができればと思っています。
 SDGsの広がりや持続可能性を考えたESG投資といった新しい概念の下で、自分たちの責任として環境問題をとらえ、行動を規制しようという考え方が浸透してきています。輸入材を使うことが悪いわけではありませんが、日本の木材を使うことは、日本の森を助け、日本の地方を助けていくことにつながると、きちんと主張すれば分かってもらえる深い土壌が以前よりも培われているような感じがします。
 ―その通りだと思います。
以前は家具業界の国産材の利用率は2割ほどでしたが、今は産地によっては5割に達したところもあります。
 昔は国有林の伐採問題などがあり、木を伐ること自体が悪であるかのようなイメージが広がりましたが、今はそれが変わってきています。私たちは「木を伐って森林を若返らせていくことは環境にいいこと」という話をずっと国民に訴えてきました。次につながる森づくりのために、家具業界の皆さんも、私たちの運動をぜひ応援していただければと思います。
家具で山の価値引き出せる
 ―「家具を買うと山にいくら還元されるのか、消費者に分かるようにしてはどうか」という意見もあります。今回の行動宣言は、立木価格水準まで踏み込んでいる点で画期的だと思います。
 ウッドショックで木材価格が高騰しましたが、その上がった部分がどこへ消え、誰の元に行ったのか分からないのです。なぜ川上に行くほど値上げの影響が薄まり、山元にお金が戻っていかないのか。木材コストの透明性の話は、今までタブーというか、言ってもしょうがないという感じでした。
 木材価格は、山主さんと木を買いに行く方々の個別交渉で決まるので、第三者にはその価格が分からないようになっています。それを変えていかないと、日本の森林を本当に次の世代にきちんとした姿で伝えていけないのではないかという、焦りに近い思いがあります。その思いが全て共同行動宣言に込められています。
 私たちは、山を循環させるための経費まで踏み込もうとしています。農業は1年間単位で勝負することができるので、かかった経費よりも安い値段で売れば、継続して生産できないことがすぐ分かります。林業は50年、60年かけて育てた経費や労力がどこかに消えてしまい、現在の価格は輸入材と比べてどうなのかというところで取引されてしまいます。本当にそれでいいのでしょうか。
 ―林業従事者の年間平均給与をみても、全産業平均と比べてまだまだ低い水準にとどまっています。
 50年生のスギやヒノキの1立方㍍あたりの立木価格は2000円から3000円。1㌶植えて500立方㍍の原木を伐り出しても100万円ほどにしかならないという状況があります。それで次の世代に経営を渡せますか。そのことを山主さんたちもちゃんと主張してほしいと思います。
 消費者に見えるところで木を使っていただく家具業界の皆さんは、その価値を一番引き出せるところにいると私たちは思っています。できるだけ、山の価値を引き出して使っていただければ、私たちとしてもうれしいです。日本の森に価値を戻していけば、日本の山はもう一度よみがえる。私たちは、そう考えています。
「安いからいい」は終わった
 ―持続可能性への理解も進んでいますね。
 SDGsの目標に「つくる責任 つかう責任」とあるように、持続可能性を確保していくためには、使う側の責任もあります。「安いから何でもいい」という時代は、もう終わっています。
 住宅メーカーの皆さんも、提供する住宅の環境価値をどう表すか考えるようになり、国産材を使うところも増えていますが、やはり、できるだけ安く買いたいという思いは当然あります。一方で、社会性を主張する形でいくらで売ればいいのかという、昔はできなかった話ができるようになってきています。家具も、日本の林業と結び付いたビジネスのやり方があるのではないでしょうか。
 12年前に公共建築物の木材利用促進法が施行された当時は、国産材を使おうと言っても「木を伐ったら山が荒れるのに、なぜ国産材を使うのか」という話がありました。その法律が改正されて、民間建築まで利用を拡大した「都市(まち) の木造化推進法」が昨年10月に施行されました。そうした国産材利用に向けての強い追い風が吹く中で、日本の林業を立て直す大きなチャンスが訪れています。
 私たちは、木材を使う企業の皆さんに、持続可能性が担保できない木材は使わないでほしいということを訴えなければいけないと思っています。まずそこからスタートして、森林所有者は持続可能性を確保できる木材を市場に提供するように努力する。それを社会的なコストとして、みんなで工夫してシェアしていくために、持続可能性を追求する人たちを応援する仕組みを国に働き掛けていきたいと思います。山側が森林循環させながら木材を適正価格で取引できる枠組みに、家具業界も入っていただけると有難く思います。
しまだ・たいすけ 1976年農林省に林学職で入省。 主に林野庁に勤務し、2004年九州森林管理局長、06年森林整備部長、09年林野庁長官、10年退任。10~13年農水産業協同組合貯金保険機構理事長。木になる紙ネットワーク理事長。全国木材検査・研究協会理事長。

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