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★カンディハウス「FOURチェアー」 倉本仁氏が開発への思い語る

倉本仁氏
FOURチェア

 カンディハウス(北海道旭川市)は、新作ワーキングチェア「FOUR(フォー)チェアー」を4月29日に発売した。FOURチェアーは、同社とインテリア販売を行うアクタス(東京都新宿区)が共同で、デザイナーに倉本仁氏(JIN KURAMOTO STUDIO)を迎え、技術監修にコクヨの協力を得て開発された異色のチェア。倉本氏、カンディハウス技術開発本部本部長・山下陽介氏、同本部・本庄良寛氏、アクタスマーチャンダイジング部部長・野口礼氏が、このほど開いた記者会見で、開発の経緯やデザイン、製造の背景などについて語った。(本文中は敬称略)

 野口 コロナ禍によるリモートワークが始まった時、働き方についての社内アンケートで、暮らしの中の椅子が仕事にも使われ、人と椅子の密接度が上がったことが分かりました。この変化に対応し、倉本さんのデザインで、より愛着の持てる製品を作りたいとカンディハウスに提案。賛同いただきプロジェクトが始まりました。
 倉本 オファーをいただいて思ったのは「今やるべき仕事が来たな」と。名作と呼ばれる家具は、空間との調和や、空間との相性の中で深いコミュニケーションができます。壁や床、天井と密接に絡み合って光る家具が僕は素晴らしいと思う。機能と空間の調和をどう取るかというのが一番のポイントでした。

■空間を豊かにする椅子を
 野口 ワーキングチェアを過去にデザインされたことはあったのですか。
 倉本 なかったです。友人がコクヨで働いていたので、難しいということは知っていました。コクヨに行って開発デザイナーの方に意見をいただきましたが、聞けば聞くほど、これは難しい、この納期でできるかと。全ての機能を満たすというよりも、取捨選択しながら空間との調和に結びつけることができて、なおかつ彫刻のように空間を豊かにするパワーを持つ、そういう椅子を作りたいと思い始めました。
 野口 開発に当たって、そうした知見が生かされた部分は?
 倉本 人間は椅子に座って体を固定して動かなくなります。これは血流を止める悪い状態なのです。タスクチェア、ワークチェアと呼ばれる、仕事に完全に特化したメッシュチェアなどは、あらゆる部分が可動して体の血流を滞らないようにする。そういうところに焦点を当ててデザインされたものなので周りの環境と相性が悪い。これは仕方がないのです。
 ただ僕らは、そこで働き、ご飯も食べ、くつろいだりするということを考えると、一つの機能に特化し過ぎず、広がりを持ち、いろいろな要素を吸収する懐の深さが必要かと思います。FOURでいうと、前後に傾斜するチルト機能、回転することで椅子から立ちやすくなるスイベル機能、キャスターも付いてますし、必要十分な機能を備えたと思います。
 野口 いろいろなシチュエーションの中で機能を絞っていったという感じですか。
 倉本 サイズ感も大事で、枠もそこまで高くないですし、リビングに置いたとき、空間自体は広く感じられる。実際座ってみると、上の方までしっかりサポートされている。このFOURのお尻に2本のフレームが入っているのですが、腰を両サイドからサポートし、人間工学的にも効いているのです。そういったところも含めてデザインの源になっています。

■異色のプロジェクト
 野口 今回、簡単なプロジェクトではなかったと思いますが、倉本さんから見たカンディハウスのものづくりが、FOURに生かされた部分は?
 倉本 2つあります。カンディさんのすごいところは緻密なものづくりです。すごく細かい所まで気を配るし、問題が起きたときにも緻密なアイデアで答えてくれる。本当に緻密なものづくりをされているというのが1つ目。2つ目はチャレンジスピリッツです。
 本庄 そうかもしれないですね。できないと言わない。見積もりがどんな値段になっても、まずはできる方向を考えるというところは、ずっと当社の歴史としてあったかもしれないと思います。
 倉本 今回の椅子も金属や木が使われ、調達も国内ではなかったりするのですが、そういう連携も含めて相当ハードルが高かったと思います。
 本庄 特に今回は強度的に重要な部分、座面と笠木をつなぐパーツが本社のものではなく、他社のオリジナルの金属部品を使ったというのは初めてだったかもしれません。
 野口 4本の支柱の部分は、普段は自社の木工で構造を支えますが、実際その4本が非常に重要で、ここを信頼しながら増強していくというのは確かに今までのものづくりとは全然違います。
 倉本 全部木質だと元々リビング、ダイニングで使っていた椅子のニュアンスですが、そこを金属フレームにしたことで、僕らはスイッチを切り替えて、新たな仕事モードに入っていきました。金属と木、2つの素材をうまく調和させるのはデザインにとっても大きなポイントだったのです。

■新しさは一切要らない
 野口 FOURには目新しさというよりも、どこか懐かしさを感じる雰囲気があるのですが、今回の新しいプロジェクトに、そういう空気感をもたらす何か理由がありますか?
 倉本 この椅子に関して僕は、新しさは一切要らないと思ったのです。これが定番となって暮らしの中に入っていくことを考えたときに、いたずらに新しさを追わない方が良いと思ったのです。
 自分の生活を振り返ると、住んでいる空間には新しい家具はなく、デザイナーももうこの世におられない人の家具ばかりです。それが今も在り続けているのは、進化論でいうと、在るから正しい、生きているから正しい、という言われ方をするのですが、良かったから残れたということもあります。そうしたものの持つパワーや豊かさ、そういうものに仲間入りできるようなデザインにしたい。文化に対するリテラシーがない人でも奇麗な椅子だねと思ってもらえるような、人間の心に素直に訴えかけるようなものを作りたいと思ったのです。
 野口 FOURは今後、何らかの計画はありますか。
 倉本 目下、いろいろやってます。周辺でワークスタイルやリビングスタイルのようなものを作っていく商品群を目指して今まさにこのチームで動いているところです。
 野口 23年にまた、素晴らしいFOURの広がりをお見せできる機会が必ず訪れると思っています。

食事・仕事・くつろぐ・遊ぶ―を一脚で
 FOURチェアはホームオフィス用でありながらダイニングチェアとしての機能を一脚で適応するというコンセプトで開発され、椅子としての佇まいが美しいことも条件とされた。このため、ユーザーのニーズに対応した商品企画をアクタスが担当。倉本仁氏デザインにより、カンディハウスが共同開発と製造。コクヨがワーキングチェアとしての機能面をサポートするという4者(FOUR)の知見が生かされた新製品となった。
 主な特徴は①長時間机に向き合う際の正しい座り方として、腰をシートの奥に入れ、背筋が伸びる姿勢を保つこと②笠木を支える4本のフレームは、深く座った際にも背骨が当たるのを避ける構造③シートの幅45㌢に対して、アームの内寸幅を50㌢に広げることで、食事から、くつろぐ、働く(学ぶ)、遊ぶという椅子の自由度が拡大―など。
 デザイン面では、北海道産タモの無垢材を使った笠木部分はナチュラル、ミディアムブラウン、ブラックの3色。フレーム部分はクロームメッキ仕上げのシルバーとマット感のあるブラックの2種類が用意され、いずれもプライベート空間のインテリアとの調和を考えた仕様になっている。
 また円弧を描く背もたれは、テーブルと組み合わせた際、ワーキングチェアを感じさせない優美さを備えているほか、キャスター付きの脚部は、現在主流の5本脚に対して、4本脚のシンプルな構造を採用、家庭のインテリアに馴染みやすいデザインを追求している。
 シート部のサイズは幅595×奥行き530×高さ780~870㍉。座高435~525㍉。脚部外寸は幅・奥行きとも790㍉。税込み価格は20万9000円から。

(左から)野口礼氏、倉本仁氏、本庄良寛氏

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