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★M&Aによる事業承継と成長戦略の成功事例 中村工芸の選択①

中村弘社長(左)と眞理子専務(右)
現代アーティストの伊吹拓氏とコラボして家具の展示を行うなど斬新な試みを行っている

コロナ禍一転、増収増益へ
 事業承継や成長戦略の選択肢としてM&Aを選ぶ企業が増えている。一方で、M&Aのイメージをネガティブに捉える向きもある。事業承継の課題を抱えていた家具メーカー、中村工芸(大阪府東大阪市)もそうだった。ところが、仲介会社の協力によるM&A後、コロナ禍の影響を受けていた業績が一転、回復基調に向かった。なぜM&Aを選んだのか。M&Aによって何が変わったのか。同社代表取締役の中村弘氏(62)と専務取締役で妻の眞理子氏(59)に取材した。

■M&Aに半信半疑
 2021年度版中小企業白書によるとM&A件数は、19年に4000件を超えて過去最高となり、20年はコロナの影響を受けつつも3730件の高水準を維持している。
 中堅中小企業を対象としたM&Aを仲介する日本M&Aセンターによると、同社が仲介した家具業界の昨年のM&A件数は過去最高になったという。
 中村工芸の中村社長は当初「各社の利益のために利用されるのではないか」と、M&Aの選択肢に半信半疑だった。
 同社は1958年に創業、ソファや椅子の家具メーカーとして住宅メーカー、問屋、オフィスメーカーなどと取引している。公共施設や空港、店舗などさまざまな建築物の家具から個人宅の特注家具まで幅広く手掛け、張り地の裁断や縫製、ボタン絞りなどの重要な工程は職人の手仕事にこだわり、長く愛用できる家具を作り続けている。

■マッチングに成功
 中村社長は、創業者である父親が亡くなった後、98年に後を継いだ。2008年のリーマンショックで仕事が激減したが、従業員たちの節約と営業・製造努力によって売り上げは徐々に回復していった。
 中村社長が60歳を迎えた頃、銀行から後継について聞かれることが多くなった。中村夫妻には長女(27)、長男(25)、次男(19)の3人の子どもがいる。
 「子どもたちに継がせたくないと思った理由の一つが、リーマンショックです。その頃、私が会社の経営に苦しんでいる姿を子どもたちは見ていますから、継ぐことはできないという思いを持たせてしまったのです」
 そんな時に調査会社から日本M&Aセンターを紹介された。
 「一緒に苦労して苦境を乗り切った従業員たちをとても大切にしています。一致団結して仕事をしてくれていることをとてもうれしく思い、その会社の雰囲気を壊されたくないと思っていました」(中村社長)。「譲受先から役員や経理が入ってくる」という別の会社の仲介は断っていた。
 ところが、日本M&Aセンターの担当者から「社名も社員も変わりません。最近は社長をそのまま続けるケースも増えています」とアドバイスされて安心したという。
 「アクシデントが起きても、すぐ対応して親身になって話を聞いてもらいました。M&Aのお話は水面下で進めていたので、従業員たちを気遣ってくれて、お客さまとして私たちのソファまで購入してくれたのです」と眞理子専務の信頼も深まった。
 昨年1月、譲受先として手を挙げた1社が内装・インテリア・リフォーム会社で箱物を扱っているリープテック(大阪市)だった。「私たちはソファ・椅子の脚物を扱っています。まったく製品が重なっておらず、うまく歯車が合って回るのではないか」と中村社長は考えた。宮崎祐一社長の「親会社・子会社ではなく、グループとして一緒に手をつないで、会社を成長させていきましょう」という言葉も決め手となり、昨年5月にリープテックが全株式を取得する形でM&Aを締結した。中村社長は代表取締役を続投、リープテック・宮崎社長は代表取締役会長に就任して両社の営業協力を進めている。

■早くもM&A効果
 「3年間は実務を任されています。守りより攻め、もう本当にマイナスをプラス思考に変える社長さんです」と中村社長は信頼する。眞理子専務は「大きな船に引っ張ってもらい支えられているような感じです。先代から引きずっている問題もマイナスに捉えずプラスに変えて、良い風を起こしてくれています」とM&A効果を話す。
 それはすぐに業績に現れた。リープテックつながりのショールームによる製品展示によって、昨年9月から一般客からの問い合わせが入るようになった。コントラクトも、大企業のキーマンを押さえているリープテックの営業力によって、受注が増えているという。その結果、20年のコロナによる減収減益から上昇基調となり、21年度2月決算では売り上げ3億円の大台を回復して増収増益に転じる見込みだ。
 中村社長と眞理子専務は「仲介会社の担当者と譲受先に恵まれた結果」と晴れやかな表情で話した。

★リーマンショックの苦しみ…子どもたちには継がせない 中村工芸の選択②

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