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★リーマンショックの苦しみ…子どもたちには継がせない 中村工芸の選択②

中村工芸予備 中村弘社長(左)と眞理子専務(右)
職人の手仕事を大切にしている中村工芸の工場

 事業承継の課題を抱えていた家具メーカーの中村工芸(大阪府東大阪市、中村弘社長)は昨年5月、内装・インテリア・リフォーム会社のリープテック(大阪市、宮崎祐一社長)が全株式を取得する形でM&Aを実現した。中村氏はそのまま代表取締役社長を務めて事業を継続。宮崎氏は中村工芸の代表取締役会長に就任して、両社の営業協力を進めると同時に、さまざまなアドバイスを行っている。その結果、コロナ禍の影響を受けていた中村工芸の業績が急回復するというM&Aによる効果が生まれている。中村氏と専務取締役で妻の眞理子氏にM&Aの選択について聞いた。

従業員たちの協力で苦境乗り切る
 ――まず貴社のお仕事について、特注家具の製造・販売だけでなく、美しい製品カタログをウェブ上で展開していますね。服のように自分らしさで選べる北欧調ソファであったり、現代アーティストとコラボした家具展示会の様子を展開したり、斬新な試みをされています。まず製品の流通ルートについて教えてください。
 中村社長 カタログの製品については、問屋さんを通して販売しています。私たちの仕事の中心は公共施設や空港、店舗に家具を入れていますが、住宅・マンションやオフィスメーカーとはじかに取引しています。
 ――社長は1984年に中村工芸に入社、98年に亡き父親の後を継がれました。
 中村社長 中学生の頃から父親から「大学を卒業して3年間は、他の会社で営業回りの経験を積んでから会社を継いでほしい」と言われていましたが、私は反発して就職時に父親と大げんかしてしまいました。その時、父親に手を出してふっ飛ばしてしまったことに私は驚いてしまいました。さらに、父親が起き上がって殴り返してきた時の力の弱さに……。「もうこれ以上は」と、心が折れてしまいました。それで父親が言った通りに3年間、車のセールスの仕事を経験した後、中村工芸に入社しました。
 ――社長ご自身の承継については、どのように考えていたのでしょうか。
 後継者については、ものすごく悩みました。私には3人の子どもがいます。長女(27)と長男(25)は自分の仕事を持っていて、次男は大学生(19)です。銀行から「次男の方が大学を卒業したら後を任せるという選択肢もあるのでは」と言われましたが、私は心が動きませんでした。子どもたちにわたしの後を継がせたくないと思った理由の一つが、リーマンショックです。その頃、私が会社の経営に苦しんでいる姿を子どもたちは見ていますから、継ぐことはできないという思いを持たせてしまったのです。
 眞理子専務 会社を継ぐことは、とてもつらいことだというイメージを子どもに与えてしまったのですね。次男は少し違った意見を持っていたのですが、インテリアにあまり興味を持っていないようでした。やはり好きじゃないと先々つらい思いをさせてしまうと思いました。
 ――リーマンショックの負債については、未だに苦しんでいる会社は多いですね。
 眞理子専務 リーマンショック後は仕事が減ってしまい、国の補助金を受けながら、短時間で作業を切り上げながら事業を継続しました。その間、駐車場のスペースを削り、借りていた倉庫を整理しました。従業員も節電、節水、張り布の無駄をなくしたり、封筒を手作りしたりと、細かいところまで節約に協力してもらいながら、皆で我慢しながら苦境を乗り切りました。

譲受先の社長の人柄に安心感
 ――なぜM&Aを選んだのでしょうか。
 中村社長 60歳になる前後から、銀行の方から後継ぎはどうするのかという話があり、商工会議所の事業承継セミナーなどに参加していた時に、調査会社から日本M&Aセンターさんを紹介してもらいました。一緒に苦労して苦境を乗り切った従業員たちを私はとても大切にしています。一致団結して仕事をしてくれるていることをとてもうれしく思い、今の会社の雰囲気を壊されたくないと思っていたので、別の仲介会社から「M&Aを締結したら、譲受先から役員や経理が入ってくる」という話を聞いた時は、お断りしました。ところが、調査会社から紹介された日本M&Aセンターさんの担当者は、お会いした時から信頼感を感じていました。休日でも来てくれて相談に乗ってもらいました。
 眞理子専務 アクシデントが起こっても、すぐ対応して親身になって話を聞いてもらいました。M&Aのお話は水面下で進めていたので、従業員たちを気遣って、お客さまとしてソファまで購入してくれたのですよ。
 ――譲受先としてリープテックさんが手を挙げました。なぜこの会社を選んだのですか。
 中村社長 調査会社から「譲り受ける会社(買い手)次第で、M&A後の経営方針は大きく変わる」というアドバイスもあり、お相手の会社を慎重に選んでいたところというアドバイスもあり、慎重に選んでいたところ、昨年1月に箱物の別注家具を扱われているリープテックさんが手を挙げられました。私たちはソファ・椅子の脚物を扱っています。同じ家具会社なのですが、まったく製品が重なっておらず、うまく歯車が合って回るのではないかと思いました。宮崎社長(当時)の人柄と「親会社・子会社ではなく、グループとして一緒に手をつないで、会社を成長させていきましょう」という言葉にも引かれました。M&A締結まで3年かかると言われていたのですが、早く譲渡先が見つかって良かったと思います。

コロナ禍一転、増収増益に
 ――M&A自体に抵抗感を持たれている方もいますね。
 眞理子専務 日本M&Aセンターの担当の方から「社名も社員も変わりません。最近は社長をそのまま続けられるケースも多いです」と言われて安心しました。今となっては、やはり譲受先の会社の社長さんのお人柄が一番大きいと感じています。マッチングとしてもベストでした。
 ――従業員のみなさんの反応はいかがでしたか。
 眞理子専務 これからどうなるのか…という不安はあったと思います。とにかく安心してもらうことを第一に考え、中村工芸はそのまま継続して、労働条件は変わらず、退職金も規定通り支払われることなどを宮崎会長(現在)も従業員の前で詳しく説明してくださいました。
 ――昨年5月に最終契約を締結した後、どのように事業は進んでいるのでしょうか。
 中村社長 宮崎会長からは「中村工芸のトップセールスとして頑張る」ということで協力をいただきながら、3年間は実務を任されています。守りより攻め、もう本当にマイナスをプラス思考に変える会長さんです。
 眞理子専務 いきなり経営に入るような形ではなく、営業実績を上げることを目標にお互い協力し合っています。大きな船に引っ張ってもらい、支えられているような感じです。先代から引きずっている問題もあったのですが、それをマイナスに捉えずプラスに変えて、良い風を起こしてくれています。工場の従業員たちが残業をしなくていい程度に、コンスタントに仕事を回していただきながら、売り上げの数字を出していることも有難く思っています。会長さんのネットワークで、元サッカー日本代表でガンバ大阪監督を務めた釜本邦茂さんら有名人からのソファの張り替えの仕事も入っているのですよ。
 ――M&A効果は業績に表れているのですね。
 中村社長 リープテックさんと関係のあるショールームでも製品を展示していただいて、昨年9月から一般の方からの問い合わせがどんどん入るようになりました。現物をじかに見る機会が増えたことが大きく貢献いただいていると思っています。コントラクトの方でも、決定権を持つ大企業のキーマンを押さえていらっしゃるので、受注が増えています。その結果、20年のコロナによる減収減益から盛り返して、21年度2月決算では売り上げ3億円の大台を回復して増収増益に転じる見込みです。
 ――コロナ禍の中で業績を回復されたのですね。営業力を強化できた上に、いろいろな問題点をプラス思考で解決するというさまざまなM&A効果が出ていますね。ありがとうございました。

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