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まずカーボンニュートラルに焦点 SDGsにどう取り組むか 日本家具産業振興会SDGs委員会・船曳鴻紅委員長に聞く

日本家具産業振興会SDGs委員会の委員長を務める船曳鴻紅氏

 SDGs(持続可能な開発目標)は2015年9月、国連持続可能な開発サミットで採択されたもので、国連に加盟する193カ国が2016年から30年までの15年間で達成するように掲げた17の目標が設定されている。日本家具産業振興会(岡田贊三会長)は今年3月、SDGs委員会を新たに設置した。家具業界はSDGsにどう取り組めばいいのか。委員長を務める船曳鴻紅氏(東京デザインセンター社長)に聞いた。

木材利用委員会から発展
 ――SDGs委員会発足の経緯は。
 私は東京デザインセンターで家具メーカーの方々にもご参加いただいて木材利用研究会を主催し、日本家具産業振興会では20年に発足した木材利用委員会の委員長を務めていました。昨年は日本の国産材を今後どれくらい利用できるのかアンケート調査をやろうとしていました。その際にアンケート調査票にただ記入してくださいということではなく、なぜ今、この調査をしなければならないかをきちんと説明して理解していただくことが必要であると考え、家具産地を回ろうとしていた矢先にコロナ禍に見舞われました。
 こうした中、日本家具産業振興会の会長に飛騨産業社長の岡田氏が就任されて初の総会が開かれたのですが、岡田会長は総会への議案としてSDGs委員会の設置を提案されました。カーボンニュートラルという面で、木材利用委員会はこれまでSDGsにかなった活動を行ってきたため、新たにSDGs委員会としてその活動を引き継ぐ形で私が委員長を務めることになりました。
 ――今から3年前は中小企業のSDGsの認知度は2割ほどでした。SDGsをどう理解すればよいのでしょうか。
 国連の事業もいろいろと細かく組織されて行われていますが、私はその目標設定を一つにまとめた言葉がSDGsであると理解しています。そのため世界各国において目標として適当なものもあれば、国民文化・経済を含め国情に合わないものもあります。
 例えばアラブの文化とキリスト教を基本とした西洋文化は相当な違いがあります。それをSDGsでまとめるといろいろなきしみが出てくるわけです。ましてや個別の企業においては、自社の活動と摩擦を起こす目標があっても不思議ではありません。だからSDGsに賛同する人たちが、全てを理解できていなければいけないということではないと思います。

SDGsは企業の根本
 ――業界はSDGsにどう取り組めばよいのでしょうか。
 SDGsはCSR(企業の社会的責任)と異なるものであるという認識を持っておく必要があります。CSRは株式市場に向けて「正しい行為をしている企業」として評価される意味合いが強いと私は思っています。それに対してSDGsは、企業の事業活動を通じて目標を達成する企業の根本、企業の体制そのものであるわけです。CSRについては、上層部が理解してそれに沿って社会貢献を行うことだと思いますが、SDGsは根本的に違います。上層部だけが理解するのではなく、従業員から家族、仕事関係者、ステークホルダー、消費者も含めて目標を達成していくわけですから次元が異なります。
 菅義偉首相は50年のカーボンニュートラル(温室効果ガス排出実質ゼロ)を打ち出しましたが、日本家具産業振興会の場合、木製家具を扱っている企業がほとんどなので、カーボンニュートラルに焦点を絞ってSDGsに取り組むことでコンセンサスを得ることが委員会の第1段階だと思っています。
 木製家具のカーボンニュートラルにもいろいろな取り組みがあります。例えば木造家屋の廃材を再利用して家具にすることもカーボンニュートラルです。いろいろなやり方があるのですが、基本的には日本の国産材を生産システムに加えていくことがまず重要だと思います。
 川上の山林から木をどう伐出するか。原木市で広葉樹が売り買いされればいいのですが、多くは製材されずにチップとなっています。もともと北海道の旭川も地元の広葉樹を海外に輸出していたわけですから、それをなんとか復活できないかと思います。特に国有林にある広葉樹をどう利用するかが課題です。
 2019年に国有林管理に関する法律が改正され、民間事業者が一定の区域を一定期間、安定的に伐採できる樹木採取権制度が設けられました。スギやヒノキはもちろん、価値の高い広葉樹をチップではなく製材してきちんと使っていくことにようやく目を向けられるようになったのです。
 山林に広葉樹があるのは分かるが、どういう枝ぶりで径はどれくらいなのか、どう伐出できるか、人が歩いて調査しないと分からなかったのが、ドローンを用いることである程度で分かるようになりました。その種火を燃やしていくことができればと思っています。日本家具産業振興会の国産家具表示についてもSDGsに絡めて、もっと発信しやすい方向に変えていくこともできると思います。
 ――ウッドショックで国産材が注目されていますね。
 今、針葉樹を使っているハウスメーカーに影響が出ていますが、広葉樹にもいずれ影響が及びます。中国の生活レベルも上がってきていますから、より取り換えのきかない貴重なものに人の目は行くはずです。住生活を充足させようとしたときに、コンクリートやガラスではなく、ナチュラル志向になってきています。木は成長までに最低20~30年かかる貴重なものですから、今後の需要の増加を考えると、価格が下がることはないと思います。そうすると日本の丸太を安い値段で売っていいのかということです。海外へ売るとしたら、最低でも製材して高く売ることを考えなければなりません。そして、より付加価値を付けて売るとしたら家具製品です。

まず理解と優先課題決定を
 ――SDGs委員会は今後、どのような活動を行っていくのでしょうか。
 SDGsの導入指針については、国際的なNGOと国際企業で構成される組織がまとめたSDGsの企業行動指針「SDGコンパス」が示されています。ステップ1としてまずSDGsを理解することから始まります。ステップ2として優先課題を決定する、ステップ3は目標を設定する、ステップ4は経営へ統合する、ステップ5は報告とコミュニケーションを行う―と続きます。まず1年目はステップ1と2を追求することを提案しています。SDGsとは何かということを理解していこうということで、講師を招いてセミナーを開催しようと思っています。それだけではなく具体的に、国有林からどう広葉樹を伐出するか専門家を招いて、ドローンによる映像を実際に見てもらいながら、林業におけるAI化の実情を実感していただければと思っています。
 ――2030年までに企業がSDGsを達成することによって年間12兆㌦の経済価値がもたらされるといわれています。
 公共事業の受注のためにSDGsを把握しておく必要があるという考えもありますが、木製家具に関しては一般家庭や民間オフィスを顧客としているところが多いため、まだSDGsは浸透していないと思います。しかし、大口の取引に際して、SDGsはマストの条件になりますから、マーケットを広げるためにも考えることが必要です。
 もう一つは金融のESG投資です。森林ファンドのようにあらゆるところでSDGsが関わってきていますから、融資条件も変わってくるわけです。
 ――SDGsが消費行動を変えていくきっかけになればと思うのですが。
 ここ2年で、欧米ではそれが当たり前の時代になってきています。日本人は慎重なところはあるのですが、コロナ禍でやはり変わってきていると思います。端的に言えば、世界はつながっているということです。地球温暖化もそうですが、地球規模の大きな変動は、世界がつながっているからこそ起こるわけです。自分たちだけ守ればいいということでは駄目だということは、一般市民も当然のこととして考えるようになってきていると思います。

 ふなびき・こうこ 1972年東大文学部社会学科卒。89年東京デザインセンター取締役副社長、91年英国オックスフォード大学レウリーハウス・アソシエ―ション・ジャパン代表、94年東京デザインセンター代表取締役社長。98年日本デザインコンサルタント協会代表幹事、01年同代表理事。14年池田山住環境協議会代表。グッドデザイン賞審査委員、林野庁林政審議会委員などを務める。

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