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新拠点「Karimoku Commons Tokyo」と国産材の未来 カリモク家具副社長 加藤洋氏に聞く㊤

玄関わきにあるKarimoku Commons Tokyoのプレート
カリモク家具の加藤洋副社長

 東京・西麻布の閑静な街の一角にある「Karimoku Commons Tokyo(カリモク コモンズ トーキョー)」。ここでこれから何が始まろうとしているのか。立ち上げの総指揮を執った加藤洋副社長のインタビューを2回に分けてお届けする。前編は建築家・芦沢啓治氏とのコラボレーションと「カリモク コモンズ トウキョウ」の成り立ち。後半は加藤氏が取り組んでいる国産材利用と国産材家具の輸出展開について聞いた。

 ――芦沢さんとのコラボはどのようにして始まったのでしょうか。
 正しい家具のありようを今でもずっと模索しているのですが、成熟社会において、例えばテーブルを持っていない方はほぼいないなかで、今使っているテーブルに不平不満がなければ、あえて新しい物に買い替えることはないでしょう。そんな中で私たちが、どういうテーブルがいいか考えたときに、どうしても飽和感が出てしまいます。
 家具メーカーだけのものの考え方では、世の中が本当に求めているものに行き着けず、持続可能な形で成長していくことも難しい。家具と密接な関係がある建築から考える家具の在り方を、彼と一緒だったら考えられると思いました。
 芦沢さんは、2011年の東日本大震災の時にこれまでの復興支援とは全く違う、「被災者自身が、自らの手で必要な物を作って暮らしを取り戻す」ためのDIYをコンセプトにした石巻工房を立ち上げられました。その考え方に非常に感銘を受け、一度お会いしたいと思っていたところ、14年の「IFFT/インテリア ライフスタイル リビング」でその機会がありました。
 震災で全てが一変し、そこにもう一度、人が住めるコミュニティーをつくるために、人々が集まれるような家具を作るということから石巻工房が始まりました。建屋はなくても、座る物があれば、そこに人が集まり、車座になって会話が生まれ、コミュニティーづくりが始まるという彼のアイデアに共鳴したデザイナーや建築系の方々がアイデアを持ち寄るという、その考え方が素晴らしいと思いました。
 東日本大震災という極限の環境が生み出した石巻工房の家具デザインは、究極に引き算され、完成されたデザインだと思います。だからこそ、国産材の個性を、色から節まで魅力として昇華できる、それくらい力を持っていると思ったことが「石巻工房 by Karimoku」というブランドを立ち上げたきっかけです。
 その前に、芦沢さんの「デザイン小石川」というプロジェクトがありました。小石川にある建屋のスペースに、いろいろな人たちが集まってコミュニケーションを図り、自由にアイデアを世の中に提示して、新しい物につなげていく取り組みです。それが彼とのつながりを深めた背景にあるのですが、「カリモク コモンズ トウキョウ」1階のギャラリーもそのプロジェクトの趣旨と近いものがあります。
 ――「石巻工房 by Karimoku」から「カリモク コモンズ トウキョウ」へとどのようにつながったのでしょうか。
 いい家具とは何だろうという問いの答えは、たぶん永久に出てこないかもしれませんが、それを追求したいという思いがあります。カリモクニュースタンダードを始めたきっかけもそうでした。今までと同じやり方では答えにたどり着けないと思い、当時は無名のデザイナーたちに仲間になってもらい、国産広葉樹の小径材を使って本当の意味の家具を一緒になって作っていました。それなりに形になって、答えに近いものが出てきたと今は思っています。
 ネットで家具を買えるような時代に私たちとしてはコモンズを、自分のお気に入りの家具があると、こんなに暮らしが豊かになるという気付きや体感が得られるようなリアルの場所にしたいと思っています。
 「コモンズ」というネーミングが象徴しているのは、その意味の通り「共有地」であるということです。つまり、ここは誰の物でもなくて、皆さんの場所であるということです。1階のギャラリーでは、アート、フード、アパレルなどジャンルを問わず、ライフスタイルを構成するいろいろなアイデアを持った人たちとの交流を図り、私たちのものづくりと組み合わせて、バラエティーに富んだ体験や価値をこの場を使って提案できればと思っています。
 ――屋上は屋外家具の実験場になっているのですね。
 屋外に家具を置いておくと色がグレーがかったり、手入れが必要になったりするなど、これまでの室内家具の想定とは異なる影響が出てきます。そこがお客さまのクレームになるのではないかということもあって、これまで製品化に踏み出せずにいました。
 屋上を使ってその変化を実験して確かめつつ、一方でここにいらしていただいた方が、どのような印象を持つのか。グレーを不快に思うのか、それともエイジングとして愛着が湧くのか。私たちだけで判断するのではなくて、いらしていただいた方たちと一緒になって判断していくことで、新しい可能性が見えてくるのではないかと思います。
 ――このスペースの今後の展開は。
 今はコロナ禍が続いているため無理なのですが、1階の大型カウンターキッチンを使い、いろいろなジャンルの方たちとコミュニケーションを図りながら、正しい家具のありようをみなさんとともに、食事でもしながら考えていければと思っています。

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