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中国回復、ベトナムが急伸 アメリカ広葉樹懇談会(全文)

木材6団体・企業が参加して意見交換が行われた
アメリカ広葉樹輸出協会日本代表の辻 隆洋氏

 アメリカ広葉樹輸出協会(AHEC)は11月16日、アメリカ広葉樹や家具・内装材市場の現状をテーマに、木材関係者を招いた懇談会を都内のホテルで開催した。

 AHEC日本代表の辻隆洋氏がスピーチを行い、2020年上半期のアメリカ広葉樹の輸出市場を説明、中国のアメリカ広葉樹の輸入動向について「四半期を見るとかなり回復しており、10月以降さらに増える」と述べた。樹種ではウォルナットが増加。米中貿易摩擦で米国からの輸入が減った分をガボンなどアフリカの国々からカバーしているという。また、ベトナムの輸入量が急激に増えていることを伝えた。
 続いて木材関連6企業・団体から招かれたパネリストによるフリーディスカッションが行われ、アメリカ広葉樹の輸入状況、日本の家具・内装市場の現状、今秋の日本の木材市場動向について意見交換が行われた。

【開催あいさつ】
日米パートナーシップに感謝
モーガン・パーキンズ氏
チャンダ・バーク氏


 開催にあいさつをした米国大使館農務担当公使のモーガン・パーキンズ氏は「米国からの日本の今年の輸入は約4万平方㍍で、昨年と比べて2割減になるだろう」と説明、米中貿易摩擦と新型コロナウイルスの影響がある中、日米の木材業界がパートナーシップを保っていることに感謝の言葉を述べた。
 続いて米国農産物貿易事務所所長のチャンダ・バーク氏が「日本の四半期のGDPが昨年の10月以来プラスに転じ、これから需要が回復していくことを切に願う。サステナブルなアメリカ広葉樹を日本に供給することを誇りに思う」とあいさつした。

【アメリカ広葉樹輸出市場の現状 2020年上半期】
米中貿易摩擦
アフリカ材が中国へ
アメリカ広葉樹輸出協会日本代表
辻 隆洋氏


 世界の広葉樹製材の輸出トップは米国で、2位はタイ、続いてEU26カ国、マレーシア、カメルーン、ガボン、カナダ、ロシア、ブラジルとなります。アフリカのガボンやカメルーン、ウクライナの中国への輸出がかなり増えています。
 広葉樹製材の輸入については過去25年間、中国がトップです。ここにきてベトナムが急激に増えています。日本も米国だけではなく、ロシアや中国も含めかなりの量を輸入しています。
 アメリカ広葉樹の過去5年間の製材輸出を見ると、中国、日本、台湾、香港、韓国など東アジアの市場がいかに大きいかが分かります。丸太の輸出先については、中国が1位となっていますが、19年の米中貿易摩擦の影響でやはり落ちています。カナダやベトナムもかなり買っており、日本は4位です。ベニヤはカナダがトップ、メキシコ、ドイツと続きますが、最近ではベトナムやエジプトも見られます。日本はほとんどベニヤを買っていません。
 中国におけるアメリカ広葉樹製材輸入の材種を見ると、19年は、米中貿易摩擦における関税の割合によって変化していることが分かります。関税25%のレッドオークは17年比で48%減、ホワイトオークは51%減。関税20%のアッシュは52%減、チェリーが29%減。関税5%のウォルナットだけがプラスとなっています。17年に比べて米国からの輸入は21%減となっており、そのロスした分を、ガボンなどアフリカの国々から買っています。
 対中国の輸出量は、レッドオークがメインです。ロシアからの輸出がなくなったホワイトアッシュが続き、ホワイトオーク、チェリー、イエローポプラ、ウォルナットの順となります。
 東南アジアでは、ベトナムがかなり買っています。何を買っているかというと、圧倒的にイエローポプラです。2位のホワイトオークについては、ベトナムに進出した日本の会社が買っているケースがあると思います。続いてアルダー、レッドオーク、ウォルナットとなります。中国や米国以外にもカンボジア、タイ、マレーシアなどいろいろな国から輸入しています。ウクライナやウルグアイからも買っているようです。今後、ベトナムにおけるアメリカ広葉樹市場は拡大していくものと考えられます。
 北米と中国を除くアメリカ広葉樹製品(製材、丸太、ツキ板、フローリングなど)の輸出額を見ると、日本がトップになり、いかに高額な製品を買っていただいているかが分かります。
 欧州のアメリカ広葉樹製材の輸出は、圧倒的に英国が多くなり、ドイツ、イタリア、スペインと続きます。最近ではエストニアやアイルランドが買い始めています。レッドオークが非常に売れており、英国やスペイン、イタリアなどが買っています。日本の皆さんもレッドオークをもっと使っていただければと思います。
 今年四半期を見ると丸太、製材ともに中国がかなり買ってきており、回復ぶりが分かります。10月以降、もっと買い込んでくると思います。

<strong>【パネルディスカッション】
米景気回復、家具業界は木材の確保を
依然、旺盛な樽材需要

<パネリスト>
一般社団法人全国木材組合連合会
常務理事
森田 一行氏

新宮商行
代表取締役社長
坂口 栄治郎氏

空知単板工業 代表取締役社長
松尾 和俊氏

物林
代表取締役社長
淡中 克己氏

ハウディー
代表取締役会長
鮫島 修二氏

北三
取締役
樽井 康弘氏

司会・進行
アメリカ広葉樹輸出協会日本代表
辻 隆洋氏</strong>

 辻 最初にアメリカ広葉樹製材・原木の輸入状況について意見交換したいと思います。
 坂口 新型コロナの影響で輸入量が落ちると思ったのですが、前年からの契約残が結構入って輸入数量はそれほど落ちず80~85%の水準です。われわれの在庫も普通の水準より高い状態になっていますので、これからある程度影響を受けると思います。米国の広葉樹製材の方々は2代3代にわたって家族経営をしてきましたが、それが変わってきていることを非常に心配しています。労働者が戻ってこない現状も聞いておりますので、調達が難しくなることが将来起きないか懸念しています。
 淡中 当社のお客さんはフロア関係とピアノメーカーさんという限られた中でやっており、年間契約ベースで決めていますので特別大きな変化はありませんが、来シーズンは多少の調整をしていかなければならない状況です。極端に発注が減ることはないのですが、調整をどのようにやっていくか考えているところです。
 松尾 米中貿易摩擦の影響で米国の立木を持っている人たちが切るのをためらい、それに合わせて天候不順もあって仕入れにすごく苦労しました。市況はツキ板からシートへの流れが続いており、住宅着工は1割から1割5分、フロアは2割から2割5分落ちていますから2割くらいは減っています。
 樽井 本来なら10、11月と原木調達員が行くはずですが、今年は行けない状態なので、取りあえずお試しで5コンテナをなじみのシッパーに全部お任せで信頼だけを頼りに買ってみました。去年からコロナ前まではツキ板原木を順調に買えていたのですが、3月に米国に行った原木調達員にそのまま2カ月いてもらって、来年の分を見越して多めに買いました。
 辻 森田さん、日本の木材業界へのコロナの影響はいかがですか。
 森田 今年の木材需給会議では3月から4月にかけて、先が見えないという話や住宅関係の方がお客さんに会えず営業が止まっているという話がありました。中国にはスギの原木を相当輸出させてもらっていますが、輸出が止まって九州の志布志の港に原木があふれているという話がありました。1次、2次補正では木材を使ってもらうため、公共建築を主として100億円の予算が付きました。もう一つは港にあふれた原木を一時的に保管するための費用などに8億円の予算が付きました。そうこうしているうちに中国が回復し始めて輸出が動き出し、今の見込みで、丸太が前年比130%を超えるのではないかと思います。住宅の着工戸数への影響は思ったほどではなくてプレカットも含めてそれなりにお仕事をされていると聞いています。ただ地域差があって西の方では原木が足りず、東の方では東北で余剰感があるようです。
 辻 日本の家具・内装材市場の現状について意見交換したいと思います。
 鮫島 木質内装材については、昨年、台風19号が上陸し、消費税が上がった直後の10月に住宅の受注量がかなり落ち込みました。その後、受注量が上がってきましたが、3、4月にコロナの影響で、再び大手のホームビルダーさんの受注がかなり落ち込み、その影響がこれから出てくるという方もいます。ただここにきて、各住宅メーカーさんの受注量がかなり上がって、前年比130%というところも出ていますので、住宅全体としては、10~15%ほどの落ち込みで済むのではないかと見られています。ただ坪単価80万~100万円の受注が多いビルダーさんは受注が増えていません。逆に40万~50万円の住宅メーカーさんの受注が非常に多くなっています。広葉樹の輸入量は減っていませんが在庫は増えています。また、大型ホテルの計画の延期による影響も出ています。
 松尾 大型ホテル、ビジネスホテルの着工が延期になったり、内装材の仕様が変更するなどのケースが非常に多くなっています。
 樽井 納期が遅れるだけではなくて、予算の関係で天然木がシートに変わったりするのが一番困ります。
 坂口 家具メーカーへの販売数量が減っていることは間違いないと思います。ただコロナで家で過ごす人が結構増えてきていますので、家の中にお金をかけようという動きが少しずつ増えている実感があります。
 淡中 最近、無垢材志向で高級フロア材は意外と伸びています。ただ大型リゾート系など着工が来年に延びていますね。それから、国産材の広葉樹に関する問い合わせが増えています。
 辻 森田さん、国産材の需要振興についてはいかがですか。
 森田 国産材は伸びていますが、その大半はバイオマスや合板に使われ、高く売れる木になっていないのが実態です。今は急速に主伐した材を使うようになってきて、植林するためにも量だけではなくて高く買ってもらうことを考えないと。広葉樹については、資源があることと、それが使えるかどうかは別の話で、山にはあるが出せないとか皆さんお聞きになっていると思います。ナラ枯れがあちこちに出ているのは要するに切ってこなかった広葉樹がたくさん残っているからです。スギを植えるのはどうかという議論が出ていて、例えば早生樹のセンダンとか、それをツキ板や家具に使えないかといった、スギ、ヒノキだけの林業から少しずつ変わってきていると思います。
 淡中 ここ3、4年、フローリングや家具において、節がついていても違和感なく売れるようになっています。その中で国産広葉樹についてもいろいろな樹種を試してみましたが、結論から言うと私のところは、材の安定供給ができないので手を引きました。今はやはりナラのブームで製材品の価格が3、4年前の2倍から3倍になっています。アメリカ広葉樹はウォルナットがはやっていて、チェリーの需要が少し落ちてきています。
 松尾 私のところもホワイトオークに移行しています。最近はナラ材やニレ材の単発的な需要は根強いと思います。
 辻 今秋以降の日本の木材市場動向についてお聞きしたいと思います。
 鮫島 中国で家具を作っていた会社がベトナムに工場を移転して米材を輸入しているところが増えていると聞いています。ハノイやホーチミンでは、かなり大きな製材工場ができつつあり、製材量も増えていると聞いています。まだまだ伸びるのではないかと思います。
 樽井 中国からウォルナットやホワイトオークの0・5㍉厚のツキ板を輸入していた時がありましたが、今は私の会社の工場で作れるようになったので、ここ3、4年はほとんど輸入していません。米国からの輸入も以前は多かったのですが、今は0・5㍉厚の需要が減ってきました。以前はピアノなど楽器メーカーがかなりの量を使っていたのですが、今は20年前に比べると20分の1になりました。
 鮫島 私のところは輸入していますが数量的には減って、非常に限定的になりました。厚単板の場合は、横ハギする設備を持っているところが限られますから。今後の市場の動向については、住宅着工はそれほど落ち込まないでしょう。特に地方の年間5棟から10棟やっている工務店さんは、ほとんど落ちていません。ただ使う内容について気になっています。カウンターなどに広葉樹の無垢材が売れないかと思っているのですが、シートや印刷に変わったりしてコストダウンを図る工務店さんやホームビルダーが多くなっていることを懸念しています。
 淡中 私のところもフロアは高級志向のものを扱っていますので、ちょっと厳しいなと思っています。今年の第2四半期以降、少しずつ回復していると聞いているのですが、お客さんの需要と在庫を鑑みると来年は2割くらい絞らないといけないかなと思います。
 松尾 米国とは約二、三十社と順調に取引をさせてもらっています。ただ毎年のことながら、天候次第かなと思います。もう一つは、特に私どもと木材の調達がかぶっているウイスキーの樽(たる)市場ですね。同グレードを1割2割高く買っているので、回ってこないことを懸念しています。
 坂口 樽市場については正直、ちょっと心配なところはありますが、担当者の力量にもよるところがあるでしょうね。
 樽井 ホワイトオークに関しましては、ここ4、5年、樽屋さんに負けている状況が続いているのですが、ツキ板用はちゃんと置いてくれているので今のところは大丈夫です。
 辻 森田さん、米国の状況は日本と比較してかなり違いますか。
 森田 米国の針葉樹の値段がこのところ一時は3倍くらいまで上がっていまして、これから米国内のマーケットがどう動くのか、日本の輸入にどのような影響を及ぼすのか非常に興味があるところです。
 辻 米国の木材事情は非常にいいですね。製材関係だと、日本の家具業界が必要とする厚みと、米国の業界が必要とする厚みが違いますから、その辺を危惧しています。日本の家具メーカーさんには、木材輸入業者を通して「家具用材の厚みについては、アメリカ側は国内向けばかり製材するので、必要な時にある程度は発注しておかないと手配できなくなる可能性がある」とアドバイスしています。
 先ほど淡中社長や松尾社長がおっしゃったように、樽屋さんは非常に元気がありますから、ホワイトオークは絶対に下がりません。必要とする柾目材の径級がほとんど一緒ですから。巣ごもり需要もあって、米国も日本もウイスキーが非常に売れているようですから。
 鮫島 先ほどの統計を見て気になるのは、1900年代から2000年にかけて日本の広葉樹の輸入が減ってきて、12、13年に上がってきたのですが、14年以降、下がりつつあります。この原因について、皆さんのご意見を伺いたいと思います。
 辻 個人的な意見ですが無垢志向からほかの素材に流れたことが大きな理由ではないかと思います。国内の林業においても無垢志向を強めていかないと木材全体の需要が減ってしまいます。
 最後に合法証明について私の方に問い合わせが結構来ていますが、AHECのメンバーはきちんと合法証明を出していますので皆さんご説明いただけると幸いです。よろしくお願いいたします。

米国大使館農務担当公使のモーガン・パーキンズ氏
国農産物貿易事務所所長のチャンダ・バーク氏

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