ニュース

★昭和初期の森林の姿よみがえる 森林総合研究所が天然林調査報告書の目録刊行

図1 青森営林局の写真帳(ブナ林)

 森林研究・整備機構森林総合研究所(茨城県つくば市)はこのほど、昭和初期に国有林内の天然林で行なわれた森林調査の膨大な報告書の原資料(662件)を整理し、目録として刊行したと発表した。昭和初期に青森から九州、屋久島まで一斉に行われた調査結果をまとめた、90年前の日本の森林の姿を今に伝える貴重な植生データで、森林断面・平面図、直径・樹高データ、写真帳などが含まれているという。同研究所では、これらの資料と現在の森林データを比較することで、90年間の環境変化の影響を検証できるかもしれないとしている。
 森林総合研究所によると、大正から昭和初期にかけて農林省山林局が管理する国有林で天然林調査が大々的に行われ、膨大な調査資料は「国有天然林調査報告書」として一部は公刊されたが、戦争激化などで全資料の公刊には至らなかった経緯があるという。戦後、この調査資料は林野庁の林業試験場(現森林総合研究所)で保管されてきた。
 今回、同研究所が古い資料を点検したところ、国有天然林調査報告書の原本である大量の手描き資料が、断片化しつつも現存していることがわかり、これらを整理することにしたもの。
 資料には、当時の天然林の林相を映し出した写真帳(図1・ブナ林)、精密な森林植生図(図2・十和田湖周辺)、精緻な森林断面図(図4・ミズナラ天然林)などが多数含まれていた。また、高知営林局の植生調査では、牧野富太郎博士など当時の著名な植物学者が関わったという記述も見つかった。
 これらは戦後の拡大造林期以前にあった天然林を記録した貴重な資料。現在残っている天然林を同じ場所、同じ手法で調査できれば、過去90年間の気候や土地利用の変化を受けて森林がどのように変化、遷移してきたのかを明らかにすることができるという。さらに今後、温暖化が進む中、森林や植物の分布がどのように変化していくのかを探る上でも、比較の原点となる貴重な資料となる。
 同研究所では各地方の森林に興味を持つ研究者と協力して、この原資料を活用した研究を全国規模で発展させたいとしている。
 森林総合研究所昭和初期国有天然林資料担当への連絡先は showaforest@ml.affrc.go.jp

図2 手描きで彩色された十和田湖周辺の貴重な森林植生図
図3 青森営林局管内のミズナラ林の森林断面図と樹冠投影図

ニュースの最新記事