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レクトラ・ジャパン 田中 昭彦 社長に聞く 日本の家具業界は「インダストリー4.0」にどう対応すればよいのか 「一品一様」で世界市場へ

田中昭彦氏
裁断室4・0のソリューション

 人口減や少子高齢化によって国内市場は縮小傾向にある。一方、世界には、1980年から2000年に生まれた約20億人のミレニアル世代に向けた大きな市場が広がっている。この世代は比較的、ブランドや個性的なスタイルにこだわるといわれ、メード・トゥ・オーダーがカギとなる。そこで注目されているのが第4次産業革命といわれるドイツ発祥の「インダストリー4・0」だ。フランスを拠点に布地・革の裁断システムなどを製造・販売し、家具メーカーのデジタル化もグローバルにサポートしているレクトラは、ファブリックの裁断システムにいち早くこの考え方を取り入れ、このほど新しいソリューション「裁断室4・0」を発表した。日本の家具業界は「インダストリー4・0」にどう対応すればよいのか。レクトラの日本法人、レクトラ・ジャパン社長の田中昭彦氏に聞いた。

「裁断室4.0」で生産改革 ミレニアル世代のニーズ対応

短納期生産に強味

 ―欧州の家具業界では「インダストリー4・0」による生産改革が進んでいます。日本の家具業界が世界と戦っていく上で、この流れにどう対応していけばいいのでしょうか。

 世界の人口ピラミッドを底上げしているミレニアル世代の市場が成長しています。一品ごとに異なった様式に対応する「一品一様」(パーソナライゼーション)でお客さまの個性を取り入れた家具を提供することができれば、非常に大きなマーケットを相手にビジネスすることができるはずです。ミレニアル世代の志向に対応するためには、パーソナライゼーションと短納期生産への変革が必要になります。普及価格帯でパーソナライゼーションを重視した家具をどう作るか。IoT(モノのインターネット)やAI(人工知能)を用いた「インダストリー4・0」を取り入れたソリューションがそこで生きてきます。
 ―「インダストリー4・0」でどう生産が変わるのでしょう。
 もともとファイナンスや電子商取引などの世界のものが、ものづくりの世界に入ってきたのが「インダストリー4・0」だと考えています。世界中の消費者の新しい志向に対応するためには、デジタルプラットフォームが必要になります。中国、ベトナムなどどこで作ろうが、同じデータを送れば同じ物を作ることができるのです。その結果、ショールームだけではなく、ネット上でのメード・トゥ・オーダーに対応できれば、世界を商圏として勝負できます。
 一品一様で大量の生産をさばくとしたら、例えば生産を管理するソフトウエアが、機械の空き状況や原材料の在庫状況をみて、この機械なら今流せる、あるいは3時間後に流せる、といった効率を考えた配分ができるようになります。

導入や保守が低コスト

 ―「インダストリー4・0」に基づいたレクトラの新しいソリューション「裁断室4・0」とは。

 「裁断室4・0」の基本となるのが、他社にはない独自のデジタル裁断プラットフォームです。裁断機を中心に各業務がクラウドベースでつながっているため、導入や保守のコスト負担が少なく、常に最新バージョンのソフトを使うことができます。
 「裁断室4・0」の一枚断ち裁断ソリューション「VIRGA(ヴィルガ)」は、カスタマイズ家具の注文がメーンとなった現在の家具市場に対応するために開発されました。異なるオーダーが連続して流れてきても、それを認識してプリンターのように裁いていきます。また、生地の柄を認識しながら裁断を実行するので、非常に高速な裁断が可能です。これによって今まで高級品の世界だった一品一様の家具を、注文から短納期に仕上げることができるようになります。
 センサーが常に機械を管理しているので、故障前に状態を知らせる「予知保全」も可能になります。修理にお伺いするときには、すでにスタッフが故障の状況を把握しているため、スピーディーに対応します。さらに部品の交換時期を知らせたり、機械の効率的な使い方をリアルタイムにアドバイスしたりすることもできます。

海外でもサポート体制

 ―中小企業にはハードルが高いところもあると思うのですが。
 家具産地と共同で同じプラットフォームに乗ることによって、例えば組合で2、3台の裁断機を共有し、各社からプリンターに出力するようにジョブを流し、裁断後にまた各社の工場に持っていって仕上げることもできると思います。
 ―レクトラの成り立ちを教えてください。
 1973年に設立したフランスの会社で、ファッション・アパレル業界から始まり、現在は自動車から家具まで、布や革などソフトマテリアルを扱うためのCAD/CAM(コンピューター支援による設計・加工)、設計・型入れソフト、裁断機を製造・販売してきました。全世界の社員数は1700人で売り上げは約300億円、そのうちの10%を家具が占めています。海外や日本の大手アパレルメーカーに普及しており、イタリアの家具メーカーの約8割がレクトラのシステムを使っています。
 ―輸出や海外生産のサポート体制は。
 レクトラは、海外に生産拠点を移してもサポートできる体制を整えています。欧州や米国では名だたるブランドのお客さまと取引しています。そうしたメーカーの経営戦略や、中国、ベトナムといった東南アジアなど現地のマーケット情報を詳しくお伝えしながら、レクトラならではのサポートとコンサルティングの体制を構築しています。


 たなか・あきひこ 1990年一橋大学社会学部卒業。仏グランゼコール(エリート養成機関)の一つ「ESCP EUROPE」のコンコルディア・プログラム履修。94年松下電器(現パナソニック)仏法人で自動車・エレクトロニクス産業向けFA(ファクトリーオートメーション)機器の営業責任者として従事。01年インクス、05年ダッソー・システムズ、17年レクトラ・ジャパンを経て18年1月同社社長。B to B市場、特に自動車とエレクトロニクス業界の営業責任者として20年以上の経験を持つ。

欧州の情報提供 ボルドーでイベント

 レクトラは毎年、本社のあるフランス・ボルドーで、各国の家具関係者を招いたイベントを開催している。同社の最新システムの体験や導入事例の紹介のほか、欧州一流ブランドの最前線の情報を提供している。
 今年は6月に「家具業界のデジタル化への未来を構築」をテーマに開催され、B&Bやポルトローナフラウなど14カ国のメーカーなどが出席した。ドイツの木工機械の大手メーカー、ホマッグ社から講師を招き、「インダストリー4・0」への対応と具体的な事例を報告した。出席者からは「ワークショップやプレゼンテーションなどがインタラクティブな方法で進行され、非常に実りあるイベントだった」という声が寄せられた。
 「中国での引き合いが非常に増えており、生産改革の意気込みを感じる。旺盛な需要の中で、日本のブランドの確立を急いだ方がいい」とアドバイスするのは、レクトラ・ジャパンのマーケティング・スペシャリスト、山本充恵氏。「フランスでのイベントは、世界の家具のトレンドを知り、一流ブランドのメーカーと交流を広げる貴重な機会となる」と日本の家具メーカーに参加を勧めている。

仏ボルドーで開催されたイベントに世界各国のメーカーが集まった

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