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★確執超えてダイレクト・トゥ・コンシューマーの手応え 森田社長が語る「手作り家具工房日本の匠」成長の原動力

国産広葉樹活用サミットの開催を導いた森田英友さん
新たに工房も稼働した

 大川で初めて開催された「国産広葉樹活用サミット九州2025in大川」の開催に尽力した福岡・大川家具工業会地域材開発部会部会長の森田英友さん(44)にお会いしたのは2020年の大川家具新春展、大川産業会館隣の屋外広場で国産材を活用した屋台を発表した時だった。その当時、手作り家具工房日本の匠(福岡県大木町)代表取締役社長として、屋台の店主のような勢いで説明する森田さんの話を聞きながら、正直この先売れるのだろうかとためらいつつ記事にした。それがいまや一流ホテルに採用され、博多の屋台の愛好者にも人気を博している。

手作り家具工房日本の匠 代表取締役社長 森田 英友さんに聞く

■新たに工房開設
 森田さんは、12年に企画・販売会社の「手作り家具工房日本の匠」を立ち上げ、ネットショップ「KAGÜCÖCÖ」を通じて、食器棚のセミオーダーからコースターまで取り扱っている。これまで納品した数は、延べ20万世帯を超える勢いのある会社に成長した。ファブレスだった同社は昨年、父親が創業した地に新たに工房を構えた。
 森田さんには、かつて父親の会社で働き、経験した苦渋の中でつかみとったものがある。その会社を飲み込んだ時と同じように原材料高騰の波が押し寄せている今、何がその成長の糧となっているのか。
■父親との対立
 森田さんはニュージーランドの高校を卒業後、東京でアパレル関係の会社や雑貨店に勤めた後に02年、22歳の時に父親が経営する家具の企画問屋に入社する。当時は独創的な製品を企画する会社として知られていた。
 入社時に父親から言われたのは「インターネットを勉強しろ。これからはネットを使って直接エンドユーザーに売る時代が来る」。森田さん自身は「人を介さずネットで売ることに対する抵抗感が強かったが、勉強だけはしていた」という。
 03年に父親の会社は、製造部門を立ち上げた。安価な商品を作るマスプロダクトへとかじを切り、食器棚など年商6億を上げるに至った。そこに原油高による原材料高騰の波がじわりと押し寄せた。定評になっていた価格の安さも足かせとなり苦しい経営状態が続いた。
 「以前は独自性でコアなお客さんを呼んでいたにもかかわらず、工場を回すために価格競争ど真ん中の商品を作るようになって、価格でバイヤーから選ばれるようになった」と森田さんは振り返る。2㌧トラックに商品を詰め込み行商に出たこともあったが成約はゼロ。BtoBの限界に来ていた。
 「木工業は家族経営が多く、経営が苦しくなるとまず先に親子関係にひずみが出ることが多い。自分も悪かったと思うが、親子げんかが増えていった。考えられることは全てやったが、価格で選ばれるメーカーの立ち位置を覆すことができなかった」。あらゆる手段を講じた後にたどり着いたのが、ダイレクト・トゥ・コンシューマー(DtoC)のネット販売だった。
■DtoCへの転換
 07年に独立して、父親の会社の食器棚をネットで販売する専門会社を立ち上げた。ほとんどのネットショップが小物を扱っていて、食器棚のような大きな家具を販売するところはなかった。しかしその時、森田さんは手応えをつかんでいたという。
 「実物を触っても触らなくても、お客さまは自分が満足する情報を得た時点で購入する。家やマンションも建売以外は、実物が完成していない状態で買っている。だったら家具もちゃんとお客さまに情報をお伝えして、作っている人たちの泥臭い気持ちまで全部伝えれば、わずかな人であっても届くと思った」
 売り上げの数字が動きはじめた。食器棚の仕入れが月に500万円を超えたころ、父親から「ロットじゃないと卸さない」と言われた。
 「その時はロットでの仕入れはまだ早いと思った。悩んだ末、大川に根差して操業し、食器棚にも精通している自分たちの強みを生かして、他社の商品も扱うようになってビジネスが大きくなっていった。今思えばそれが一つの分岐点だった」
 同社は昨年、優れた技能を持つカツキ木工別注家具の食器棚製造事業を承継して、父親の操業の地で、ものづくりの工房を立ち上げた。すでに父親の会社は経営不振で事業をたたんでいた
■ネットは海を越える
 森田さんは「ルームファニシング」(東洋ファニチャーリサーチ、2024年7月15日号)のインタビューで、名前の「英」は国際的に活躍してほしい、「友」は人に恵まれてほしいという願いが込められていると明かしている。まだネット販売が普及していなかったころ「インターネットは海を越える」という父親の言葉が印象に残ったという。読者に一番伝えたいことは何かと聞くと「個人としては…」と前置きして次のように答えた。
 「父親の会社を救いたくて、そのために手作り家具工房日本の匠を立ち上げた。お互いに血が濃過ぎて、自分も若くて対立はしていたが、もう少し素直になっていたらと思う。売り上げが落ちて親子の仲が悪くなるのは不幸なこと。大川あるいは日本のものづくりの会社に、自分のようなことを繰り返してほしくない」
 新たな工房は未来を見据えて、森林の生物多様性を守り、地域社会や先住民族、労働者の権利を守りながら適切に生産された製品を消費者に届けていることを認証するFSC認証の取得を目指して事業を進めている。
 18年前に独立した時は自前で資金を用意し、駐車場に1枚798円、3×6のコンパネ6枚を敷き詰めて事業をスタートした。現在、自社のネットショップは2店舗、ほかに楽天で4店舗、アマゾンとヤフーそれぞれ1店舗の合計8店舗で販売を行っている。ネットを利用したDtoCへの切り替えが功を奏し「2050年には輸出を柱とする会社を目指す」と海を越えて思いが広がる。

ネットショップ「KAGÜCÖCÖ」 https://www.kagucoco.jp/
手作り家具工房日本の匠株式会社
〒830-0405 福岡県三潴郡大木町横溝522 電話0944-88-9557

日本の暮らしに合わせたセミオーダーの食器棚を開発している

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