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★【モクコレ2023ステージ講演から】飛騨産業 「森と歩む」会社を目指して

岡田明子氏

 全国各地の地域材を活用した木材製品の展示商談会「WOODコレクション(モクコレ)2023」が1月31日と2月1日の両日、東京ビッグサイトで開かれた。出展各社のブース展示のほか、ステージでは林業・建築・環境・木製品など各界の識者により国産木材の可能性を紹介する講演が行われた。この中から、飛騨産業の岡田明子氏と、ワイス・ワイスの野村由多加氏による2つの講演の要旨をご紹介したい。

「森と歩む」会社を目指して

飛騨産業代表取締役社長 岡田明子氏

 飛驒産業はおかげさまで創業103年目を迎えます。曲木の西洋家具を作り始めた創業時から森林資源と向き合ってきました。現在はウッドショックや円安など安定的に均質な材料を手に入れることが難しい状況です。森と歩む企業として、これからの課題や展望をお話しさせていただきます。
 2001年にホワイトオークの「節」を主役とした「森の言葉」というシリーズを発表しました。それまでは小さな節でも不良品として廃棄されていました。このシリーズは若い方を中心に好評で、大ヒットしたおかげで、使える材料の幅が広がり、弊社が森と歩むことを意識する原点となりました。
 また戦後大量に植林され放置されてきたスギを圧縮して強度を高め、美しいデザインの家具を作る挑戦を続けています。イタリアの巨匠、エンツォ・マーリ氏には、スギを使う意義に共感いただき「HIDA」など美しい製品をたくさんデザインしていただきました。
 昨年発表した原研哉氏の「SUWARI」というシリーズは、細い直線で構成されたデザインで、小径木の木材が活用できます。日本の山の現状を踏まえながら国産広葉樹の活用に取り組んでおります。

国産材利用率20%を目標に

 次は国産材を使うことの意味についてです。飛騨産業の木材調達の歴史を振り返ると、1920年は国産材利用率100%でしたが、2020年は12・9%になっています。70年代から海外材への転換が行われ、近年は使用量の大半が輸入材という状況です。
 ではこれからどうしていくのか。中期目標として国産材の利用率を2021年の9・6%から、25年には20%へ上げることを目標に動いており、昨年22年は12・9%で推移しています。
 国産材の自給率は上がっていますが、これからは木材利用のピークが過ぎ、人口も減少していきます。これからの時代に、どのような森林資源活用が適正なのか真剣に考えるべき時期にきていると思います。
 国産材を使うということは、海外に流失していた資金を国内で循環させることができること、海外からの輸送にかかるCO2を削減でき、また地産地消の観点から山林に手が入ることで里山の環境が守られる―などのメリットがあると思います。
 ただ、我々のような中小企業の実態を見ると、国内木材の利用総量7000万立方㍍に対して、家具への利用は72万立方㍍で全体の1%に過ぎません(2015年)。ですから弊社が頑張って全製品を国産材に切り替えても全体に与える影響はわずかです。
 しかし、国産材を使うことの価値は利用量だけでは計れないと考えており、そうした事例をご紹介したいと思います。

地域から広葉樹のまちづくり

 2020年1月、高山市に「Cup of Teaアンサンブル」というホテルがオープンしました。木のまち・高山市を実現したいというオーナーの思いに共感して、弊社は創業100周年プロジェクトとしてホテルづくりに関与しました。
 ホテルのオーナーや建築家と我々メーカーが一緒に飛騨の山に入り、材料を見て山の現状を知り、そのあとで我々の製材所で材料を挽いて、その材料で美しい空間を作ろうと、そういうプロセスを経て完成したのがこのホテルです。家具はほぼ岐阜県産材を使い、パサードは飛騨のスギ材を積み上げて外壁にしています。客室などにも使われ、合計約200本のスギ材丸太が使われています。オープンから2年、いま「木のまち・高山」を発信する拠点になっています。
 近年、公共施設や企業で空間の木質化が推進される中、地域自治体との連携で、その土地ならではの木材を活用した家具製作も行っています。地方自治体との取り組み例として、吉野杉で知られる奈良県黒滝村や、静岡県浜松市の天竜杉を使った商品開発があります。
 飛騨市では「広葉樹のまちづくり」という先進的な活動を進めており、広葉樹活用コンソーシアムという組織を立ち上げ、弊社も加盟しております。
 自治体同士をつなぐ取り組みでは、神奈川県川崎市から国産材の家具を使いたいという要望を聞き、川崎の病院に飛彈の広葉樹の家具を供給する仲介をしました。
 このほか飛騨市と木材乾燥に関する共同実験を数年前から行っております。通常の天然乾燥では1年以上かかるといわれる広葉樹が、低温乾燥という手法で最短45日で家具用材になるというものです。温泉熱を活用した乾燥所を2023年秋に建設する予定です。
 いま木材は海外から運ばれてくる時代から、山林から運ばれ、製材・乾燥を経て使われるものに回帰しつつあります。
 弊社が掲げるミッション「森と歩む」は、木材需給の問題を解決するだけではなく、土地の暮らし全体に視野を広げて、チェーンを繋ぎ直していくことが、これからの日本にとって、すごく重要なのではないかと感じております。

 ◇講師プロフィル
 おかだ・あきこ
 岐阜県高山市生まれ。南山大学外国語学部卒業。2011年飛驒産業に入社。2020年の創業100周年を機に、自社の方向性を定めたいという思いからブランディングプロジェクトを立ち上げ、企業理念の言語化・体系化を牽引した。2021年12月、代表取締役社長に就任。

高山市のホテル「Cup of Teaアンサンブル」
圧縮スギの家具「HIDA」
飛騨市と進めている木材乾燥の共同実験

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