ニュース2022.08.15
家具デザイナーの小泉誠氏(Koizumi Studio=東京都国立市)が「暮らしながら働く」ことを目指して取り組んできた2つの施設がこのほど完成した。東京都東村山市の相羽建設本社屋と、空き家を活用したコワーキングスペース「あそこ」(東京都清瀬市)で、「働くこと=暮らすこと」をテーマに、企業がユーザーや地域と連携する新たな仕組みづくりを目指している。
相羽建設は東京西部の東村山市を営業エリアとする工務店で、昨年創業50周年を迎えたことから「これから先10年で100年続く工務店を目指す」というビジョンを掲げ、本社のリノベーションを行った。
3階建ての社屋の1階にはキッチンやギャラリー、2階はフリーアドレスのオフィススペース、3階には来客との打ち合わせなど用途によって使い分けることのできる大小のミーティングスペースが設けられた。
設計を担当したデザイナーの小泉誠氏は「『暮らしを作る工務店』として、日々の仕事も暮らしだという考え方で、社員が楽しく生き生きと『暮らしながら働ける』環境を目指した」と語る。
1階ギャラリーでは「大工さんの道具展」や「自分が好きなマンガ展」などが企画され、社員の発表の場、みんなで楽しむ場所に使われている。
ナラ枯れ材で事務椅子を製作
2階にはオフィスのほかに、大きな伸縮テーブル(若葉家具製)が置かれた交流スペースも設けられ、社員がランチを楽しみ、それを来客とも共有する。
もう一つのこだわりは、自然を感じてもらうため国産材広葉樹を内装材に加えたこと。さらにナラ枯れの被害に遭った材木を成形合板にして事務椅子を作った。
ナラ枯れ材をあえて使った理由について小泉氏は「宮城県登米市で広葉樹を扱っている森林組合と仕事をするなかで、近年ナラ枯れがひどいという話を聞き、ナラ枯れ材を捨ててしまうのではなく、椅子の素材に使うことで、ナラ枯れが問題になっていることも伝えていきたいと考えた」という。
顧客や地域の情報発信の場に
もう一つの施設「あそこ」は、西武池袋線の清瀬駅前の空き家を相羽建設が倉庫として使っていた2階建ての建物で、相羽の頭文字「Aの倉庫=あそこ」がネーミングの由来。
地域に根ざす相羽建設ならではのビジネスモデルとして、空き家を有効活用した顧客と地域のための施設にこのほどリノベーションされた。
1階がギャラリーとフリースペース。2階には相羽建設の顧客限定のコワーキングスペースが設けられ、顧客とその家族が利用できる。
「相羽建設は以前から顧客同士が集まるイベントを催しており、コワーキングスペースやキッチンも作って、家族ぐるみで活用できる場を提供し、顧客満足と信頼性の向上を目指した」(小泉氏)。
ギャラリーでは、顧客の家族らによる作品展のほか、地域の作家の展覧会や講演などを催して、地域の持つ潜在能力を発信していく場所にしたいという。
家づくりにおける家具提案
こうした取り組みを進めている家具デザイナー・小泉氏が目指すものは何か?
小泉氏と相羽建設は2014年、良質な生活道具の提供を通して職人の手仕事の再構築・普及啓発を目的に関係業界に呼びかけて「わざわ座」を結成した。
大工ら職人に加え、デザイナーや全国70以上の地域工務店が参加し、2015年からは家具の試作・改善、家づくりにおける家具の提案に取り組んでいる。
その第一弾プロジェクト「大工の手」は、デザイナーが設計した家具などの図面を参加工務店に提供し、家を建てた大工が図面を元に家の端材や古材を使って制作。工務店がその家のオーナー(施主)に販売する仕組みだ。
小泉氏は「わざわ座は大工の仕事をより活発にしていく社会的な運動でもある。全国の工務店とともに家づくり、場所づくりだけでなく、暮らし方や働き方を一緒に考えていく場にしていきたい」と語っている。
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