ニュース2019.01.01
2019年は家具業界にとって国産材と合法伐採木材の利用がさらに広がる年になりそうだ。一方、国産材を利用しているメーカーは、木材を切り出す山側との需給のマッチングに苦労している。合法伐採木材の利用を促すクリーンウッド法については、水際での規制を求める声がある。家具新聞は業界が抱えるいくつかの問題点について、林野庁の牧元幸司長官に直接インタビューして質問した。
国有林については現在、新たな制度改正が進んでいる。意欲と能力のある林業経営事業者に10年を基本として決まった区域を伐採する権利を付与するもので、木材を供給する川上と川中、川下の需要側を結ぶ連携と支援策が盛り込まれる。牧元長官は「家具業界も含めて、川下・川中の事業者に林野庁の制度金融を使っていただいてもいいのではないか」と踏み込んだ。
新年度からスタートする森林環境譲与税は、これまで木材利用を意識していなかった区市町村まで譲与税がまわる。その使途について各自治体で議論が行われている最中だ。牧元長官は「都市部でも必ず木材利用を考えなくてはいけなくなる。その中で木製家具などの普及が進む」と、業界への期待を込めて語った。
クリーンウッド法については、違法伐採の定義が国際的に定まっていない中で「日本の法体系の下で制度化できなかった法技術上の理由がある」ことから規制法まで踏み込めなかったことを明かした。
国産材の活用には家具業界が欠かせない―。林野庁の牧元幸司長官は家具新聞のインタビューで、川上・川中・川下が連携して、木材を安定的に供給するプランを提示した。家具作りに欠かせない広葉樹も含む国産材の供給を増大させるためのプランとして注目される。また、新年度から全自治体に譲与される森林環境譲与税の使い道について「木製家具への利用にも期待したい」と話した。
―家具業界の国産材利用の動きが活発になっています。特に広葉樹については、どこにどれだけ資源があるのか分からないという声があります。山側とのマッチングをどうすればよいのでしょうか。
人工林資源の充実を背景に、国産材の利用は拡大して、供給量も増大しています。木材自給率は36%まで回復し、供給量も10年前の1900万立方㍍から3000万立方㍍に届こうとしています。川下は家具をはじめ、いろいろなニーズがあります。その一方で、川下側はどこに材があるのか分からない、川上側はどこに需要があるのか正確には把握していない。そのあたりのマッチングが十分うまくできていないのでは、という認識を持っています。
川上・川中・川下をつなぐサプライチェーンマネジメントを構築し、各地域に協議会をつくって、川上から川下まで情報の交換と共有を行い、木材がうまく流れる仕組みを新年度予算で支援していきたいと思っています。
次に国有林についてですが、例えば、北海道や東北については、ミズナラやブナなどの広葉樹資源が充実してきているなど、これまで地域のさまざまなニーズやこういった国有林の資源の状況も踏まえ、必要な広葉樹の供給を行ってきたところであり、今後ともきめ細かく対応したいと考えています。
そして、これに加えて今後進めようとしているのが、国有林の新たな仕組みの検討です。昨年は山を集約化して安定的に材を供給できるように新たな森林管理システムをつくりました。集約を図りながら、意欲と能力のある林業経営者に材を切り出してもらおうという仕組みです。ただこれは、民有林を対象としたもので、国有林にもそういった仕組みが必要です。
具体的には、地域の意欲と能力のある林業経営者を育成するため、例えば、数百㌶を10年間、こうした林業経営者が伐採・販売できるようにすることを基本とすることを考えています。
また、この林業経営者は、川中・川下と連携するところを想定しています。例えば、家具業者にしっかりスギ、ヒノキ、カラマツをはじめとする木材を供給するようなところもその一つとなり得ると考えており、そういう意味で家具業界の針葉樹を用いた家具の需要開発にも期待しています。
さらにそれを支援するために、家具業界も含めて川下・川中の事業者に林野庁の制度金融を使っていただいてもいいのではないかと思っています。川上・川中・川下が連携して材を使っていただける場合は、川下業者も含めて運転資金をお使いいただけるような金融面での制度改正をセットで次の通常国会で提案したいと思っています。
―海外の見本市に国産材を使った家具を積極的に出展しているところもあります。
素晴らしいですね。木を切る素材生産業者、製材する業者などと連携していただければ、国産材を安定的に使っていただけるような仕組みとしたいと思います。
―業界では、工夫しながら針葉樹の利用を進め、森林環境譲与税をにらんだ動きもあります。
税制改正大綱において2019年度の創設が決まっている森林環境譲与税は、全ての市区町村とそれを支援する都道府県に譲与されることになっています。森林を抱える山間部の市町村では主に森林整備に使われますが、森林が少ない都市部の市区町村では、森林・林業への理解促進にもつながる木材利用や普及啓発などに使われることになります。自治体によって譲与額が異なるため、公共施設などの木造や木質化などに使うところもあれば、公共施設への木製机や木製椅子の導入などを使途として考えるという話もあります。
―積極的に提案を行っている家具産地もあります。
それはいいことですね。これまで私たちは、都市部で木を使ってほしいと呼び掛けてきました。東京の港区や江東区などやる気のあるところは一生懸命やってくれるのですが、全く関心のないところもありました。今回は譲与される都市部でも必ず木材利用を考えないといけなくなるわけですから、その中で、公共施設などの内装の木質化や木製家具の導入などが進むという点で期待しているところです。
―クリーンウッド法については、水際で対応すべきで、家具業界がなぜ対応しなければいけないのかという声もあります。なぜ規制法ではなく、促進法として、登録木材関連事業者を募るやり方を選択したのですか。
クリーンウッド法の木材関連事業者の登録は、157件(12月14日時点)です。違法伐採対策に国際的に取り組む潮流があり、適切な注意を払うという面では各国と基本的には同じスタンスだと思っています。ただし、水際でなぜ止めなかったのか、あるいは欧米のような規制法の形をとらなかったのかについては、実態上の問題と法規制上の問題の両面があると思います。
実態としては、デュー・デリジェンス(DD)を行う必要があるという共通認識は、国内業界に既にあると思います。皆さんでDDを行うことを、関係者の多くが合意できるような方式ということで、こうした選択がなされたと思うわけです。それが実態上の理由だと思います。
もう一つは、法規制上の理由で、違法なものをどう取り締まるのかは、各国の法体系でいろいろなやり方があります。わが国の法体系においては違法なものを取り締まるには、何が違法なのかを厳密に特定していく必要があります。そうしないと規制できないわけです。
そもそも違法伐採の木材というのは、国によって、人によって、さまざまな捉え方があり、国際的なコンセンサスも得られていません。厳密にいえば、現地の国の司法において、裁判で違法性が確定したものは違法であるということが最低限言えます。では、どこまでが違法かということになると、例えば東南アジアの政府が合法だと認証した材であっても、違法なものがあることを指摘されるNGOもあります。日本の法体系の下で違法なものを厳密に定義しないといけない、という中で法的に制度化できなかったという法技術上の理由があると思います。従って、関係者の皆さんでDDを心掛け、心掛ける方々には登録してお墨付きを与えるという方式に落ち着いたわけです。
―関係者が取り組んできた、これまでの経緯があるということでしょうか。
そうです。それぞれの団体が取り組んできたその延長線上にあるということです。ただし、濃淡もあると思います。業界団体として一括して登録を受けていただいているところもありますし、準備が整ったところからというところもあります。業界全体で取り組んでもらえるように、林野庁としては引き続き普及活動に取り組んでいきます。
―クリーンウッド法を世界に通用する制度として育ててほしいという期待もあります。
林野庁は各国に対して、日本はクリーンウッド法で木材の合法性を担保していると説明しています。最近では韓国でも新たな規制法制が施行されました。その中で、日本のクリーンウッド法で確認されているものについては、基本的には合法性の担保がされたものだという扱いをしていただけるようになっています。今後、こういうPRを各国に広げていきます。
まきもと・こうじ 1985年東京大学法学部卒、農林水産省入省。2002年大臣官房企画評価課調査官、03年生産局総務課国際室長、大臣官房企画評価課政策研究管理官、04年総合食料局食品産業振興課外食産業室長、農林水産技術会議事務局先端産業技術研究課長、06年生産局畜産部食肉鶏卵課長、08年林野庁林政部企画課長、11年大臣官房付、宮崎県副知事、13年大臣官房付、大臣官房文書課長、14年林野庁林政部長、16年内閣官房内閣審議官(内閣官房副長官補付)(内閣官房消費税価格転嫁等対策推進室長)、17年林野庁次長。
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