ニュース2021.06.01
カンディハウスはこの春、染谷哲義氏を社長に選任し、ブランドカラーをレッドからグリーンに一新するなど思い切ったリブランディングを行った。また、ターゲットをミドルレンジまで広げ、デジタルトランスフォーメーション(DX)を推進する基本計画を発表した。今後は、主力製品の北海道産材への切り替えをさらに進めるとともに、北海道産広葉樹の活用比率を全体の5割まで高めながら、海外輸出も広げていくという。リブランディングの真意と先が読めないコロナ禍の苦境をどう乗り切るか、染谷社長に聞いた。
――昨年の家具の出荷・販売や輸出統計を見るとコロナ禍にありながら、なんとか踏みとどまっている様子がうかがえます。ただ「巣ごもり」といっても各社それぞれ、数字には表れない浮き沈みがあるのではないかと思いますが、いかがでしょうか。
確かにそう感じ取っているところですが、コロナ禍において二極化が進んでいる中で、家具・インテリアの市場は、需要が高まっている感じはします。コロナの巣ごもりの影響で家の中を見直す時間が増えて、衣・食・住から住・食・衣と「住」を重視する動きがむしろ加速した印象があります。
難しい局面ではあるのですが、私たちは今、暮らしから食やファッションまでを含めて、ライフスタイルとして包括するような、ボーダーレスな立ち位置にあると思います。つまり、暮らしという大きな傘の下で、自分たちのあるべき姿や心地よさを、このタイミングで考え始めているということではないでしょうか。
――今ここでなぜリブランディングに踏み切ったのでしょうか。
ブランドというと、海外の有名ブランドに代表される高額品のイメージもありますが、私たちは、2013年の藤田哲也の社長就任以来、ブランディングを経営方針の一つとして唱えてきました。企業やブランドの価値そのものを高めることを、常にトップメッセージとして社員たちに伝えてきました。私は企画本部、マーケティング本部でブランディングを統括する仕事に携わってきました。
創立50周年を迎えた18年に、今後の50年を見据えて企業の在り方について整理し直しました。それを明文化したものがカンディハウスのブランドストーリーであり「ともに つくる くらし。カンディハウス」のタグラインです。そして、ブランディングを継続するために、タグラインに掲げる暮らしの提案を具現化する活動やショップリフレッシュを行ってきました。
その流れの中で、時に見直し、改善し、ブラッシュアップすることがリブランディングとするなら、海外展開を考えたときに、今の打ち出しだけで本当に足りているのかということが、大きなテーマになっていたのです。今回の役員改選による新体制移行がタイミングとしても、渡辺直行相談役、藤田哲也会長のバトンをつないでリブランディングする機会であった、ということだと思います。
――渡辺相談役もリブランディングの時期に来ていると判断されたそうですね。
そうです。もともと渡辺が米国でグローバルビジネスを展開している時に、カンディハウスの社名と赤のブランドカラーが生まれ、日本を表現するカラーとして役割を果たしてきました。私たちは今後、地球環境と調和する「デザイン経営」を進めます。さらにそれをもう一歩踏み込んで進めていくために、文字や言葉だけではなく、デザインを標榜(ひょうぼう)する以上はビジュアルとして表現する必要があるのではないかということで、それをグリーンのブランドカラーで表現しました。
――ミズナラの葉の緑を表しているそうですね。カンディハウスを創業した長原實さんが旭川市海外派遣技術研修生としてドイツに滞在した時、北海道産のミズナラで製造された家具が、高級家具として世界中に輸出されていることに衝撃を受け、いつか北海道の木を使った家具を輸出することを夢見たというエピソードがあります。
ミズナラは私たちにとってベーシックな部分でのよりどころであり、企業を興したきっかけでもあります。今、旭川で進めている「ここの木の家具・北海道プロジェクト」の中心にも据えており、いろいろな思いが込められています。
――なぜ顧客層をミドルまで広げていこうとしているのでしょうか。
カンディハウスをご愛用いただいている皆さまは、ミドルハイの方々が多く、年齢は40歳代後半から50歳代がボリュームゾーンになっています。もちろんそのゾーンだけをターゲットにしているわけではなく、さらに若い世代では、気に入った物を納得してもらい、長く使っていただくことも考えているのですが、まだまだ私たちの働き掛けが不足しているのも実情です。
その中で、ホームユースだけではなくコントラクトの領域までを含めて、幅広い年齢層にカンディハウスの家具をご採用いただけるようなプロジェクトに参画していくために、製品の価格帯をミドルハイだけに集中するのではなく、ミドルの領域にまで広げていった方が、より多くの人々に体感していただけると考えています。
――今後、ミドルの価格帯の製品が出てくるということですか。
これまでも全くそこを意識していないわけではなかったのですが、製品開発も含めて考えています。メディアに取り上げていただく際に「高級家具」という表現が使われますが、果たしてこの表現でいいのかどうか、私たちに選択権はないのですが、重要なのは「高品質である」ということだと思います。高品質で良いデザインの家具を適正な価格と感じていただけるような打ち出しができることが理想です。今は木材価格の高騰という難しい状況もあります。さまざまな要素がある中では、木製家具という領域は、ビジネスとして決して簡単ではないと思っています。
――DXを今後どのように進めていくのでしょうか。
DXは、情報発信やデジタルを使ったビジュアルづくりだけではありません。企業変革やデザイン経営の基本的な考えにつながりますが、開発、製造、販売からアフターサービスに至るまでの一気通貫の経営手法の一つとして重要な言葉であると考えています。
販売の一つの具体的な手法としてバーチャルショップを立ち上げましたが、そうしたデジタルを使った情報発信や販売手法だけではなくて、ものづくりの現場のテクノロジーの部分でもDXを応用して企業変革を推進するということです。
先進の加工機械と職人の手仕事の融合が当社の特徴でもありますが、コンピューター数値制御による加工機のデジタルデータ作りにおいても、これは不可欠な要素となります。そこを高めていくために4月から「製造設計」という新しい部署を立ち上げました。営業からのコントラクト案件に関する図面や、開発試作などを、すぐに工場のものづくりにつなげる橋渡し役として、工程や構造設計を担っています。
――これから環境の取り組みをどのように進めるのですか。
まずはカンディハウスとして環境に向き合って取り組めるところからやっていこうということで、その一つが旭川家具全体で取り組んでいる「ここの木の家具・北海道プロジェクト」です。北海道産広葉樹を活用することが、北海道の森を守り、林業を活性化することにつながります。これからも北海道産広葉樹を積極的に使い、5割を超える活用比率を目標にしています。
これまで輸入材を使っていたモデルを国産材に置き換え、同じナラ材でもホワイトオークから北海道産ナラ材への切り換えを進めます。プロジェクトに参加した当初、北海道産広葉樹の活用比率は10%にも満たなかったのですが、今や5割を超えようとしているのは、単に物量が増えたのではなくて、主力製品を輸入材から国産材に切り替えたり、新しく開発する製品の樹種を最初から北海道産広葉樹に設定したりすることで、比率を高めてきたからです。これからもこれを継続して、さらに力を入れていくことになると思います。
――今後の輸出展開についてはいかがでしょうか。
輸出に力を入れ、北海道産広葉樹の活用比率を高めること自体が、国産材家具の輸出展開に寄与していくことになります。ただ、北海道産のナラやタモを使っていることが、海外の人たちに響くかというと、その実感はまだありません。木材自体のキャラクターの魅力が増すという領域にはまだ至っていないと思っています。
一方で、川上の林業の活性化、北海道の森を守り元気にすること、家具にまつわる産業を総合的に活性化したいという志、そういったところに、ものづくりの重点を置いた企業、あるいはブランドであることが、訴求効果を高めるということは間違いないと思います。それを体現し、表現するために、今回のリブランディングがあるわけです。
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