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イタリア家具紀行 第1回 ラグジュアリーから日常へ回帰 イタリア人ジャーナリスト ロベルタ・ムッティ氏が語る「ミラノサローネ2017」 インタビュー:小田部和子記者

長年にわたりミラノサローネを取材。東南アジアとイタリアを結ぶブロジェクトや企業のコンサルタントとしても活躍する、ロベルタムッティ氏(右)とインタビューする小田部和子記者(左)(サローネローフィアラ会場)
開幕直後のメインゲートの様子。開幕を待ちかねた人々が押し寄せる

 今年のミラノサローネを取材した小田部和子記者が、イタリアのジャーナリスト、フィレンツエの家具職人らにインタビューした「イタリア家具紀行」を連載します。長年にわたりミラノサローネを取材してきたイタリアのジャーナリスト、ロベルタ・ムッティ氏は今年のサローネをどうみたか、小田部記者が聞きました。
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 ―今年もミラノサローネには、6日間の会期中、165カ国から 34万人以上の来場者数を記録しました。これだけの人を集めるミラノサローネの魅力とは?

 一言で言えば、ここに来れば、今、デザインの世界で何が起こっているのかがわかるということだと思います。サローネの本会場でも、フォーリサローネでも、訪れる人によって見るものが違います。私は、ジャーナリストの目でプロダクトを見ますし、クリエイティブデザイナーはディスプレーや展示方法を見る。バイヤーも買い付けだけではなく、商品のデザインや流行、傾向を見に来る。2000以上という膨大な出展数 (※若手デザイナーの登竜門・サローネサテリテ参加デザイナー650人含む)を誇り、さらにこのうちの34%が海外からの参加です。見たいものが、ここにくれば必ず見つかるということでしょう。ミラノサローネは世界の家具の情報発信の場であり、情報収集の場でもあるのです。

 ―今年のサローネをご覧になってどんな印象を持ちましたか?

 私が会場を回って感じたのは、目をひく特別なトレンド、例えば、特別な色とか特別な素材ということではなくて、今年は日常の生活に沿ったテイスト、日常の生活に基づいて開発されたプロダクトが多くなったように思いました。昨年まではイタリアの企業もロシアとかアラブとかに焦点を当ててたラグジュアリーなものを展示したり、超デラックスなデザインを、もてはやす傾向がありましたが、今年は、イタリアの市場にターゲットを戻したところや、ドイツやフランスをはじめとするヨーロッパ圏内の市場に焦点を当てたもの、日常の生活の中で使うヨーロッパテイストの商品に流れが戻ってきているように感じました。
 象徴的な例を挙げると、イタリアでFLOUというベッドを中心とした会社がありますが、ここしばらくは豪華なキングサイズのベッドに力を入れていました。今年は、木で作られたシンプルなデザインもの、日常的なスペースを有効活用できる収納式のシステムベッドを発表しています。
 また、LAGOは「優しさ(Never Stop Living Kindness)」をテーマにイタリア芸能、金融、スポーツなど各界で活躍する8人の女性がプロジェクトに参加して、日常の生活の中で快適さを追求したリビング、ダイニング、ベッドルームなど、彼女たちが考える優しさを8つの異なった空間で表現しました。
 Rivaは今年ランボルギーニとコラボレーションして話題になりましたが、本来は1920年に創業された、木を素材に使った家具の会社です。私が面白いと思ったのベネチアの運河の木の杭をテーブルトップに使ったダイニングテーブル。歴史もあり、素材をうまくデザインに取り入れて、使い勝手良い家具を作っている会社です。
 ユーロルーチェでは「FLOS」。日本では、デザイン性の高さとともに価格も高価なものばかりと思われているようですが、こちらでは一般的な家庭で、センス良く使われているランプやスタンドなどのアイテムがたくさんあります。

 ―今回はフォーリサローネでは、トリエンナーレ美術館で「JAPAN DESIGN WEEK」、ジルサンダーのショールームではnendoが個展を開催。ローフィエラの本会場では日本企業も単独出展しています。ご覧になった感想は?

 日本の企業の展示ブースはとても興味深いですね。
 カリモクニュースタンダードが今回ローフィエラの本会場に初めてブースを出展しました。ビジネスとして売り上げを伸ばすためには、本会場に出るということがとても重要なことですが、すぐにできることではありません。ブランドを確立して、フォーリサローネで認知してもらい、準備を重ねて本会場に出展するという正しい手順を踏んでいると思います。世界中のデザイナーを起用し、プロダクトコンセプトが非常に明確。十分インターナショナルな市場で通用するものだと思います。
 飛騨産業は、全く異なったプロダクトですが、材質の木の美しさ、木組みのテクニックの巧さ、デザインもとても洗練されていて素晴らしいプロダクトだと思いましたが価格がとても高いですね。セバスチャンコンランのデザインの新作の椅子も見ましたが日本的なデザインだと思いました。
 マルニ木工は、去年とほぼ同じ深澤直人氏のディレクションイメージでした。プロジェクトとして明確なものがありましたし、ホール16に出展できるということは、とても評価ランクが高いということです。実はデザイナーインタビューを申し込んだのですが、すでに先約でいっぱいでした。それも注目を集めているという一つのエピソードになるでしょう。

 ―若手デザイナー登竜門として、またミラノサローネ出展企業のデザイナー発掘の場として、1998年に生まれたサローネサテリテでは今年 20 周年を祝う特別展 も開催されました。日本からミラノに来て勉強がしたい、仕事がしたいと思っているデザイナー、クリエイターにぜひドバイスを。

 サローネサテリテの参加デザイナーは、デザインやメディアなどの分野で世界的に著名な人物で構成された選考委員会によって選出されます。これまで参加した若手デザイナーは 1 万人を超え、その中から多くの国際舞台で 活躍するデザイナーを生み出しています 。世界中のデザイン学校も参加しています。

 私がデザイナーやクリエイターを志す人に一番大切だと思うことは自分を曲げずに信念を持ち続けること。これはとても難しいことです。日本人がイタリアに来て働くためには忍耐強く努力することが必要ですが、ミラノにはたくさんデザインを勉強するための良い学校があります。まず、留学生制度を利用して、大学やデザイン学校で勉強して、研修生として仕事を始めるがいいでしょう。勉強をするためにも滞在許可証が必要ですし、突発的なトラブルなどの時にやはり独学でというのは対応が難しいからです。
 一見イタリア人はオープンだと思われがちですが、イタリア社会は外部からの人を受け入れにくいという閉鎖的なところもあります。段階を踏んで、経験を積みながら人とのネットワークを築いていくというのも重要です。私は、イタリアのデザイナーや企業を、シンガポールやマレーシアの企業と結ぶコンサルタントの仕事もしていますが、異なる文化が出会い交流することで、さらに新しい文化やプロダクトが生まれるということを実感しています。、決して不可能ではないと思います。
(次回からは会員ページで掲載します。web家具新聞購読申し込みはhttps://kagunews.co.jp/page/form)

FLOUのシステム収納棚+収納式システムベッド。ソファの背面を倒すとベッドに。狭いスペースを有効に活用できる。
Home sweet office Romo をテーマにしたLAGO のブース
トリエンナーレ美術館、「匠」と題された「JAPAN DESIGN WEEK」の展示ブース

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