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★【年頭所感】より一層の木材利用促進を 林野庁長官天羽 隆氏

天羽隆氏

■災害と温暖化
 新春を迎え、謹んで新年のごあいさつを申し上げます。
 昨年は、令和3年7月・8月の豪雨をはじめとする自然災害により、全国各地で甚大な被害が生じました。亡くなられた方々のご冥福をお祈りするとともに、被災された全ての方々にお見舞い申し上げます。また、被災地で復旧・復興にご尽力されている関係者の皆さま方のご努力に敬意を表したいと思います。林野庁といたしましても、全国の被災地の一日も早い復旧・復興に向けた支援などに全力で取り組んでまいります。
 近年は、毎年のように大規模な豪雨災害や土砂災害などが頻発し、地球温暖化による気候変動への危機感も増しております。林野庁といたしましても、国民の皆さまの生命と生活を守るべく、森林の有する山地災害防止機能や水源涵養(かんよう)機能のより一層の強化に向けて、防災・減災、国土強靭(きょうじん)化のための森林整備や治山対策などの取り組みの加速化に引き続き取り組んでまいります。
 また、災害に強い森林づくりと併せて、2050年までに温室効果ガスの排出量を実質ゼロにする「2050年カーボンニュートラル」の実現に向け、森林資源の循環利用も求められております。戦後、先人たちが守り育ててきた人工林の多くが成熟し、本格的な利用期を迎えている現在、豊富な森林資源を「伐って、使って、植える」という持続的なサイクルで活用し、森林・林業・木材産業の成長産業化につなげていくことが重要であると考えております。

■基本計画の実施
 さて、昨年6月に新たな「森林・林業基本計画」が策定され、今後の森林・林業施策の指針が示されたところです。本計画は①森林資源の適正な管理・利用②「新しい林業」に向けた取り組みの展開③木材産業の国際競争力・地場競争力の強化④都市などにおける「第2の森林」づくり⑤新たな山村価値の創造―という5つの柱を通じて、森林・林業・木材産業の持続性を向上させながら成長発展させることで、社会経済生活の向上と2050年カーボンニュートラルに寄与する「グリーン成長」の実現を目指すこととしております。
 昨年は基本計画実施の初年度であり、計画の実現に向けた積極的な動きが多数ございました。
 まず、基本計画の策定に先行し、昨年3月には「森林の間伐等の実施の促進に関する特別措置法」の一部を改正し、同法に基づく間伐などの支援措置の期限を延長し、エリートツリーなどを用いて再造林を促進する措置を新設いたしました。高齢級化の進むわが国の人工林に若い木を増やすことは、森林資源の循環利用に欠かせないと同時に、二酸化炭素の森林吸収量を増加させることに寄与いたします。これは昨年10月に閣議決定された「地球温暖化対策計画」の30年度の森林吸収量目標約3800万CO2㌧(13年度総排出量比約2・7%)という目標達成の重要な手段です。
 また、このような再造林の支援のほか、効率的かつ安定的な林業経営の育成を図るため、国有林において樹木採取権制度がスタートしております。民有林からの木材供給を補完する形で、国有林から一定期間・安定的に樹木を採取できる樹木採取区を全国で10カ所パイロット的に指定し、昨年9月から樹木採取権者の公募を開始しており、今後、順次、樹木採取権者が決定する見込みです。
 さらに、木材は他の資材と比べて製造時の二酸化炭素排出量も少なく、木造化・木質化した建築物は炭素を貯蔵できるという点から、木材利用の促進は2050年カーボンニュートラル達成にも大きく貢献します。このため、川上での木材の安定供給を推進するとともに、その受け皿となる川下の木材需要拡大を図ることも重要であり、そのための新しい一歩として、昨年10月には、「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」が改正され、「脱炭素社会の実現に資する等のための建築物等における木材の利用の促進に関する法律」として施行されました。この改正法により、木材利用促進の対象が公共建築物から建築物一般に拡大されたところであり、建築物においてより一層の木材利用の促進に取り組んでまいります。
 また、民間建築物などにおける木材利用の促進に向けて、川上から川下までの関係者が一堂に会し意見交換を行う「ウッド・チェンジ協議会」を立ち上げたところであり、幅広い関係者の連携により木材利用の定着と普及を国民運動として推進してまいります。加えて、木造化・木質化が進んでいない中高層建築物等における木材利用を促進するため、CLTや木質耐火部材等の技術開発・普及とともに、木材利用による2050年カーボンニュートラルへの貢献を「見える化」する取り組みを進めてまいります。

■国産材の安定供給
 もう一つ、昨年の大きな出来事として、木材の世界的な需要の増加や海運コストの上昇などに伴う輸入木材の価格高騰が発生しました。輸入木材の供給リスクが改めて顕在化したといえます。こうしたリスクに備えるためには、国産材の安定供給に向けた環境整備を行うことが重要であり、原木の安定的な供給に向けた間伐や路網整備などの取り組みのさらなる推進、加工施設整備などによる国産材製品の競争力・供給力強化、輸入木材に代替できるような国産材製品などの利用促進を通じて、海外市場の影響を受けにくい需給構造の構築に取り組むこととしています。また、中央および全国7地区において、川上から川下までの関係団体の皆さまによる需給情報連絡協議会を3巡にわたって開催し、正確な需給情報を共有するとともに、不足する建築部材について輸入材から国産材へ転換する事例や、ボトルネックとなっている木材の人工乾燥施設を新規導入する事例などを共有しており、このような取り組みが全国各地で行われるよう林野庁としてもしっかりサポートしてまいります。
 森林・林業・木材産業の持続と成長を促し、社会経済生活の向上と2050年カーボンニュートラルに寄与するグリーン成長の達成に向け、昨年の取り組みをさらに前進させていけるよう、そしてわが国に暮らす全ての皆さまが森林の恵みを末永く享受できるよう、全身全霊をもって日々まい進していく所存です。本年も森林・林業・木材産業関係者の、国民の皆様のご協力をお願いいたします。
 結びに、現在直面している未曽有の課題を打破し、本年が皆さま一人一人にとって、実り多き素晴らしい一年になりますよう、心よりお祈り申し上げます。

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