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街路樹を家具に 大学構内のエノキもテーブルに 神戸大学 黒田慶子氏に聞く「都市近郊の木材利用の可能性」㊤ 

エノキのツキ板で作った神戸スタイルのキッチン
黒田慶子氏

 街路や公園、大学キャンパスなどで樹齢50年を超える木々が増えているが、利用されずに廃棄されている現状がある。神戸大学大学院の黒田慶子教授に、都市近郊の木材利用の可能性について聞いた。
(写真は黒田教授提供)

ナラ枯れが
広がった原因


 ―これまでどのような研究をされてきたのでしょうか。
 1980年代に森林総合研究所でナラ枯れのメカニズムを研究しながら、現場を調査するマクロとミクロの研究生活を送っていました。そこで実感したのは、木の病気は治せないということです。ナラ枯れは、カビによる伝染病ですが、被害が広がると治しようがありません。
 なぜこんなにナラ枯れが増えるのか。ナラ枯れは、薪炭林を放置すると出てくる被害ということは随分前から分かっていました。その現場にあるのは、放置された木が成長した、直径50~60㌢の大木なんですね。その放置林が、ナラ枯れの病原菌を運ぶキクイムシが大発生する条件になってしまい、ここ20年で大きな問題になりました。
 近畿地方では、薪炭林として1000年を超える歴史を持つ場所もあるのですが、それを自然に返せということで放っておいたらナラ枯れの原因になってしまいました。もともと人の手が入った林は、放置ではなくて管理が必要であるということです。
 20年前だとまだ「里山の木を伐るのはけしからん」という雰囲気がありました。木を伐りながら管理することが大事だという話が広く伝わるようになったのは、ここ2、3年のことです。
 ナラ枯れは直径10㌢以下の若木にはほとんど発生することはありません。だから若木の状態で炭やまきとして使い、葉っぱを肥料として使ってきた。昔の人たちはちゃんと分かっていたのですね。
 予防医学の観点からすると、木の若返りをすれば病気は止まります。薪炭林の時代に戻ることはできないわけですから、広葉樹を使うことを再検討することが必要なのです。

 ―家具業界でも、例えば旭川の方で利用率が40%を超えるようになりました。
 北海道は広葉樹を売って使う伝統があります。里山の木材利用に関しては、カリモク家具さんが熱心に取り組まれています。ほかにもコンタクトをとっているところがあるのですが、広葉樹の量と質が確保されれば使ってもいいというところが多いですね。里山にどのような木があるのか使い手に情報を出さない限り、売りようがないということで、あるベンチャー企業と、電子タグを付けて里山の木の在庫管理をする計画を進めています。

緑の変色が
個性に


 ―街路樹の利用に関してはいかがでしょうか。
 大学構内に植えられた木の多くが伐られずに巨木化してしまい、中には直径70~80㌢の木もあります。そのほとんどが廃棄物として高額で処理されているのが現状です。神戸大学構内の木についても伐採して置いておくと事故になるということで、私の研究費を使って廃棄せずに、製材して家具を作ろうということになりました。
 木材コーディネーターの山崎正夫氏(シェアウッズ代表)に協力いただいて神戸市内の製材所で約8立方㍍のエノキの丸太を製材してもらい、構内で乾燥してダイニングテーブルを作りました。とてもいい材だったのですが、その過程で「エノキなんて誰も使わない」と散々言われました。

 ―確かに使えないと思われている木が多いですね。
 そのエノキもカビが付いているわけではないのですが、緑に変色しているところがあるので、腐っていると誤解されるのですね。顕微鏡をのぞいて材質を確かめると、比重がずっしりとあって、ケヤキが白くなったような感じでしたが、ケヤキよりも肌触りが良くて、木目もとてもきれいでした。製材された板の肌触りも良くて、とてもいい雰囲気を持っていたので、私は「これならいける。変色した緑も個性になる」と思いました。
 そこで高級キッチンを製造している神戸スタイルに山崎さんから相談していただき、当時の社長が神戸大出身で「母校の木なら使ってみよう」ということになり、エノキのツキ板を使ってショールームのキッチンユニットになりました。グレーがかった緑がインパクトになった個性的なキッチンだと思います。
 神戸市からも、大木になったケヤキやクスノキの街路樹を使えないかと相談がありました。50年ぐらい前から盛んに植栽された街路樹が大木になり、それが歩道の通行の邪魔になる場合に伐採されており、神戸市ではその一部を木材として利用できないかと保管していたのです。山崎さんが一部を製材され、その後、私の研究室の学生が卒論で製材した板を、サイズから厚さまで全部測定してカタログ化しました。その段階で、カリモク家具に買っていただくことになりました。
(続く)

エノキで作ったダイニングテーブル
神戸大学構内に植えられていたエノキの丸太

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